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第五章「盲愛の寺」
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「で、おぬしなら、どちらを取り込む? 甲斐の武田か? 相模の北条か?」
笑っているが、試されていると感じたのであろう………………信忠は、しばらく考えた後、徐に口を開いた。
「某ならば、北条を」
「ほう、何故?」
「北条は、上手く領民支配を進め、内政には憂いなく、虎視眈々と関東一帯の支配を狙っておりまする。居城とする小田原も周囲に幾重にも支城を築き、堅牢な造り、また各地に城を築き、これを一門に任せており、その連帯は大変強固、これを攻めるにはなかなか厳しいものがありまするが、逆に北条を取り込み、関東の采配を任せれば、十分な働きをすると思われまする。第一、武田は吾らが宿敵、これを破るは織田家の悲願と心得まする」
話しを聞いて、殿が目を丸くしている。
「武田には、おぬしの勿忘草がおるのだぞ?」
「それとこれは、別儀にござりまする」
断言した信忠を見て、殿は嬉しそうに頷いた。
「うむ、よう言うた!」
珍しく殿が褒めたので、信忠の方が酷く驚いていた。
「それに、よくよく周囲の国々のことを調べ、織田家にとって何が大事かを十分に考えておる。当主として、あっぱれじゃ!」
「はっ、お褒め頂き、ありがたき幸せ」
信忠は、満面の笑顔で頭を下げる。
それはそうだ、いままで散々叱られてきたのだから、嬉しいに決まっている。
織田家の当主として、真に認められた瞬間だ。
心なしか、顔を上げた信忠は妙に興奮していた。
「そ、それで、大殿のお考えは?」
「儂か? 儂は……、甲斐の〝小猿〟かのう………………」
意外な答えに、信忠は目玉をひん剝いている………………先ほど、北条を取り込むと褒められたばかりなのに………………
「な、何故、武田に加勢いたしまする?」
「甲斐の〝大猿〟(徳栄軒信玄(武田晴信))が亡くなり、先の戦(長篠・設楽の戦い)で多くの重臣を亡くしても、よくよく甲斐・信濃を抑えておる。さらには、散々戦をしていた越後と和議を結び、佐竹や里見とも手を結ぼうと動いておるらしい。あの〝小猿〟、なかなかやるではないか。加勢するわけではないが、織田が武田と友好な関係を築いておれば、周辺諸国も靡こうて。逆に北条につけば、周辺の国が敵にまわるやもしれぬ。西国が斯様な状況では、下手に東国には手を出せん。いまはしばらくは武田で様子をみるかといったところじゃ。西国の片がつけば、その時は武田を………………」
討てば良い………………という、殿の考えだ。
「そ、そこまでお考えでしたか………………」
信忠は、殿の策に感嘆し、己の未熟な考えに恥じ入っていた。
「親子と言えども、お互い考えが違うものだな。羽林殿のことは言えんか」と、殿はけたけたと笑っていた、「まあ、西国が落ち着くまで、東は様子見じゃ。近々羽林殿の使いがくるとか」
「この一件で?」
「いや、誕生祝の返礼とか、まあ、その際にこの話はでようが………………」
笑っているが、試されていると感じたのであろう………………信忠は、しばらく考えた後、徐に口を開いた。
「某ならば、北条を」
「ほう、何故?」
「北条は、上手く領民支配を進め、内政には憂いなく、虎視眈々と関東一帯の支配を狙っておりまする。居城とする小田原も周囲に幾重にも支城を築き、堅牢な造り、また各地に城を築き、これを一門に任せており、その連帯は大変強固、これを攻めるにはなかなか厳しいものがありまするが、逆に北条を取り込み、関東の采配を任せれば、十分な働きをすると思われまする。第一、武田は吾らが宿敵、これを破るは織田家の悲願と心得まする」
話しを聞いて、殿が目を丸くしている。
「武田には、おぬしの勿忘草がおるのだぞ?」
「それとこれは、別儀にござりまする」
断言した信忠を見て、殿は嬉しそうに頷いた。
「うむ、よう言うた!」
珍しく殿が褒めたので、信忠の方が酷く驚いていた。
「それに、よくよく周囲の国々のことを調べ、織田家にとって何が大事かを十分に考えておる。当主として、あっぱれじゃ!」
「はっ、お褒め頂き、ありがたき幸せ」
信忠は、満面の笑顔で頭を下げる。
それはそうだ、いままで散々叱られてきたのだから、嬉しいに決まっている。
織田家の当主として、真に認められた瞬間だ。
心なしか、顔を上げた信忠は妙に興奮していた。
「そ、それで、大殿のお考えは?」
「儂か? 儂は……、甲斐の〝小猿〟かのう………………」
意外な答えに、信忠は目玉をひん剝いている………………先ほど、北条を取り込むと褒められたばかりなのに………………
「な、何故、武田に加勢いたしまする?」
「甲斐の〝大猿〟(徳栄軒信玄(武田晴信))が亡くなり、先の戦(長篠・設楽の戦い)で多くの重臣を亡くしても、よくよく甲斐・信濃を抑えておる。さらには、散々戦をしていた越後と和議を結び、佐竹や里見とも手を結ぼうと動いておるらしい。あの〝小猿〟、なかなかやるではないか。加勢するわけではないが、織田が武田と友好な関係を築いておれば、周辺諸国も靡こうて。逆に北条につけば、周辺の国が敵にまわるやもしれぬ。西国が斯様な状況では、下手に東国には手を出せん。いまはしばらくは武田で様子をみるかといったところじゃ。西国の片がつけば、その時は武田を………………」
討てば良い………………という、殿の考えだ。
「そ、そこまでお考えでしたか………………」
信忠は、殿の策に感嘆し、己の未熟な考えに恥じ入っていた。
「親子と言えども、お互い考えが違うものだな。羽林殿のことは言えんか」と、殿はけたけたと笑っていた、「まあ、西国が落ち着くまで、東は様子見じゃ。近々羽林殿の使いがくるとか」
「この一件で?」
「いや、誕生祝の返礼とか、まあ、その際にこの話はでようが………………」
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