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第五章「盲愛の寺」
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八上城は、波多野氏の居城 ―― 堅牢な山城である。
波多野氏は幾度となくこの城に籠り、細川尹賢、三好長慶、三好宋渭らを退けてきた ―― ちみに、一度だけ松永孫六(松永秀久の甥)に城をとられたことがあるが、これを奪還している。
これほど守りの固い城である。
城主の波多野氏も、その特性をよく知っている。
一筋縄ではいかぬと、十兵衛は城の周りに何重にも堀や柵を巡らせ、兵糧攻めとした。
城方は、はじめこそ威勢が良かったが、鼠一匹逃げ出せない状況に、兵糧も尽き、その場に生えていた草木を食い、それがなくなれば牛馬までも食って、それさえもなくなって精魂尽きかけた将兵が、最後の活路を求めて撃って出たが、十兵衛はこれを全て討ち取ったらしい。
そして、残った波多野秀治・秀尚・秀香らを調略で捕らえ、八上城を落としたのである。
「八上城には、明智次右衛門(光忠)が城代として入り、惟任様はそのまま丹後へと進まれるとのこと」
近習の話を聞いて、
「うむ、あっぱれと、十兵衛にはそう伝えてやれ。また、波多野兄弟は安土に来たら、早々に磔にせよ!」
波多野兄弟らは、慈恩寺(浄厳院)のはずれで磔にされ、その生涯を閉じた ―― 丹波の名門波多野氏もここに尽きる。
よはりける 心の闇に 迷わねば いで物見せん 後の世にこそ
(弱っている心の闇に迷うことがなければ、
後の世に化けて出てやろう)
秀治の辞世の句とか。
物騒な詩であるが、殿は、
「化けて出て、何が出来よう。生きてこそ、仇がとれるのだ」
と、けらけらと笑っていたが。
波多野氏は幾度となくこの城に籠り、細川尹賢、三好長慶、三好宋渭らを退けてきた ―― ちみに、一度だけ松永孫六(松永秀久の甥)に城をとられたことがあるが、これを奪還している。
これほど守りの固い城である。
城主の波多野氏も、その特性をよく知っている。
一筋縄ではいかぬと、十兵衛は城の周りに何重にも堀や柵を巡らせ、兵糧攻めとした。
城方は、はじめこそ威勢が良かったが、鼠一匹逃げ出せない状況に、兵糧も尽き、その場に生えていた草木を食い、それがなくなれば牛馬までも食って、それさえもなくなって精魂尽きかけた将兵が、最後の活路を求めて撃って出たが、十兵衛はこれを全て討ち取ったらしい。
そして、残った波多野秀治・秀尚・秀香らを調略で捕らえ、八上城を落としたのである。
「八上城には、明智次右衛門(光忠)が城代として入り、惟任様はそのまま丹後へと進まれるとのこと」
近習の話を聞いて、
「うむ、あっぱれと、十兵衛にはそう伝えてやれ。また、波多野兄弟は安土に来たら、早々に磔にせよ!」
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よはりける 心の闇に 迷わねば いで物見せん 後の世にこそ
(弱っている心の闇に迷うことがなければ、
後の世に化けて出てやろう)
秀治の辞世の句とか。
物騒な詩であるが、殿は、
「化けて出て、何が出来よう。生きてこそ、仇がとれるのだ」
と、けらけらと笑っていたが。
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