本能寺燃ゆ

hiro75

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第五章「盲愛の寺」

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 八上城は、波多野氏の居城 ―― 堅牢な山城である。

 波多野氏は幾度となくこの城に籠り、細川尹賢ほそかわただかた三好長慶みよしながよし、三好宋渭そういらを退けてきた ―― ちみに、一度だけ松永孫六まつながまごろく松永秀久まつながひでひさの甥)に城をとられたことがあるが、これを奪還している。

 これほど守りの固い城である。

 城主の波多野氏も、その特性をよく知っている。

 一筋縄ではいかぬと、十兵衛は城の周りに何重にも堀や柵を巡らせ、兵糧攻めとした。

 城方は、はじめこそ威勢が良かったが、鼠一匹逃げ出せない状況に、兵糧も尽き、その場に生えていた草木を食い、それがなくなれば牛馬までも食って、それさえもなくなって精魂尽きかけた将兵が、最後の活路を求めて撃って出たが、十兵衛はこれを全て討ち取ったらしい。

 そして、残った波多野秀治ひではる秀尚ひでなお秀香ひでたからを調略で捕らえ、八上城を落としたのである。

「八上城には、明智次右衛門じえもん光忠みつだた)が城代として入り、惟任様はそのまま丹後へと進まれるとのこと」

 近習の話を聞いて、

「うむ、あっぱれと、十兵衛にはそう伝えてやれ。また、波多野兄弟は安土に来たら、早々に磔にせよ!」

 波多野兄弟らは、慈恩寺(浄厳院)のはずれで磔にされ、その生涯を閉じた ―― 丹波の名門波多野氏もここに尽きる。



   よはりける 心の闇に 迷わねば いで物見せん 後の世にこそ

   (弱っている心の闇に迷うことがなければ、
                   後の世に化けて出てやろう)



 秀治の辞世の句とか。

 物騒な詩であるが、殿は、

「化けて出て、何が出来よう。生きてこそ、仇がとれるのだ」

 と、けらけらと笑っていたが。
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