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第四章「偏愛の城」
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安土も、大水の被害に遭ったとの報せが入ったので、五月二十七日に太若丸や乱など、小姓数人を連れて帰還。
それぞれの処置をしたあと、祇園会を見物するために再び上洛した。
祇園会では、馬廻り組と小姓組がお供したが、みな警護のために刀や長槍の仕度をしていると、
「おい、いらぬぞ、いらぬ!」
殿は、武具をすべてはずせと言った。
しかし、それでは万が一のときに………………と上申すると、
「大げさにするな! このご時世だ、町衆も怖がろう」
大出水のあとで、京の人々も疲弊している。
そこに、武装した連中が大挙して動けば、『戦になるのでは?』と震えあがるという。
流石は殿である。
馬廻りたちは弓や槍、刀を置いてお供をした。
さらに殿は、祭りを見終わったあと、その馬廻りも帰し、小姓数十人だけを連れて鷹狩りへと向かった。
小姓たちだけで殿のお供をするのは初めてであったので非常に緊張したが、ともかく何事もなかったので、ほっと胸を撫でおろした。
二日後、〝猿〟がやってきた。
恐らくは、重治から一言、二言あったのだろう。
あの人好きする笑顔はどこへやら、頬はげっそりと扱け落ち、目は窪み、まるで髑髏のようである。
青白い顔で、口元をぴくぴくと引きつらせている。
「痩せた?」
唐突に聞かれ、
「いや、その……」
と、口籠った。
「なんかあった?」
「はあ……、まあ、いろいろと……」
殿と、一か月あまりで播磨を征する約束した。
播磨衆を説得し、味方に付けたと、意気揚々殿に報せにきた。
それが別所氏によってすぐにひっくり返され、播磨衆も離反、毛利軍に上月城を囲まれる失態を犯した。
その救援もままならず、あげく織田家の本隊が秀吉の助力に駆け付けるあまり………………恥の上塗りとはこのことであろう。
北陸での、退きの件もある。
本来ならば、殿と顔を合わせるのも嫌なはずだ。
「此度は某の失策により、大殿にご心配をおかけいたし、まことに申しわけござりませぬ。また、殿をはじめ、北畠様、神戸様らに助力をいただき恐れ痛み仕り候。某、先の………………」
「言い訳は良い!」
殿は、秀吉の話をばっさりと切った。
秀吉は、身体をびくりと震わせる。
「いまさら過ぎたことを、ぐだぐだと述べても何になろう」
御尤もで。
「これから如何にすべきかであろうが?」
「はっ、左様で……、ただいま上月城は毛利の手勢に囲まれておりますが、城に籠る軍勢はいまだ士気旺盛で……」
「捨てよ!」
秀吉は、窪んだ目玉を大きく見開いた。
それぞれの処置をしたあと、祇園会を見物するために再び上洛した。
祇園会では、馬廻り組と小姓組がお供したが、みな警護のために刀や長槍の仕度をしていると、
「おい、いらぬぞ、いらぬ!」
殿は、武具をすべてはずせと言った。
しかし、それでは万が一のときに………………と上申すると、
「大げさにするな! このご時世だ、町衆も怖がろう」
大出水のあとで、京の人々も疲弊している。
そこに、武装した連中が大挙して動けば、『戦になるのでは?』と震えあがるという。
流石は殿である。
馬廻りたちは弓や槍、刀を置いてお供をした。
さらに殿は、祭りを見終わったあと、その馬廻りも帰し、小姓数十人だけを連れて鷹狩りへと向かった。
小姓たちだけで殿のお供をするのは初めてであったので非常に緊張したが、ともかく何事もなかったので、ほっと胸を撫でおろした。
二日後、〝猿〟がやってきた。
恐らくは、重治から一言、二言あったのだろう。
あの人好きする笑顔はどこへやら、頬はげっそりと扱け落ち、目は窪み、まるで髑髏のようである。
青白い顔で、口元をぴくぴくと引きつらせている。
「痩せた?」
唐突に聞かれ、
「いや、その……」
と、口籠った。
「なんかあった?」
「はあ……、まあ、いろいろと……」
殿と、一か月あまりで播磨を征する約束した。
播磨衆を説得し、味方に付けたと、意気揚々殿に報せにきた。
それが別所氏によってすぐにひっくり返され、播磨衆も離反、毛利軍に上月城を囲まれる失態を犯した。
その救援もままならず、あげく織田家の本隊が秀吉の助力に駆け付けるあまり………………恥の上塗りとはこのことであろう。
北陸での、退きの件もある。
本来ならば、殿と顔を合わせるのも嫌なはずだ。
「此度は某の失策により、大殿にご心配をおかけいたし、まことに申しわけござりませぬ。また、殿をはじめ、北畠様、神戸様らに助力をいただき恐れ痛み仕り候。某、先の………………」
「言い訳は良い!」
殿は、秀吉の話をばっさりと切った。
秀吉は、身体をびくりと震わせる。
「いまさら過ぎたことを、ぐだぐだと述べても何になろう」
御尤もで。
「これから如何にすべきかであろうが?」
「はっ、左様で……、ただいま上月城は毛利の手勢に囲まれておりますが、城に籠る軍勢はいまだ士気旺盛で……」
「捨てよ!」
秀吉は、窪んだ目玉を大きく見開いた。
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