本能寺燃ゆ

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第四章「偏愛の城」

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 殿が、京の様子をあれこれと聞いているところに、秀吉の使者がやってきた ―― 竹中半兵衛重治たけなかはんべえしげはるである。

 備前八幡山城を調略にて落としたとのこと。

 毛利勢の後ろをとったことになる。

 殿は、褒美として黄金百枚、重治にも銀子百両をとらせた。

 重治が褒美を受け取り、下がろうとすると、殿は、

「ちこう」

 と、手招きをされた。

 重治は、殿の前まで進み出る。

「〝猿〟はどうじゃ?」

「どうとは?」

「城一つを落としたぐらいなら書状で済むこと。わざわざおぬしを使番として寄こすこともあるまい。儂の様子見か?」

「左様なことは………………」

「隠さず申せ、半兵衛。儂とそなたの仲じゃ」

 重治は、美濃斎藤氏の家臣であった。

 斎藤氏は、殿によって滅ぼされ、主を失った重治は一時期浅井氏の客将となったが、これもすぐに辞め、浪人の身となった。

 同じく浪人で、しばし浅井に厄介になっていた十兵衛と懇意になり、その斡旋で、殿の家臣となった経緯がある。

 武略よりも、調略に長けるところが気に入られ、殿も重宝していたが、秀吉が是非とも家臣として欲しいと願ったので、牧村利貞(まきむら・としさだ)、丸毛兼利(まるげ・かねとし)とともに与力としてつけた。

 秀吉は、『某が〝三顧の礼〟をもってお迎えした』と嘯いているようだが。

「儂が、おぬしをただの与力としてつけたと思うてか?」

 重治は苦笑する。

「されば………………、織田家への忠義はむかしより変わらぬかと」

「織田家か……、織田家の誰か?」

 重治は、ただ笑うのみ。

「うむ、あい分かった。半兵衛、今後も〝猿〟をよくよく支えよ。大事にならぬようにのう」

 重治は一瞬身体を強張らせた後、「承知いたしました」と下がっていった。
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