本能寺燃ゆ

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第四章「偏愛の城」

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 殿は、三月二十三日には上洛。

 殿の命を受けた信忠は岐阜から、信意(信雄)、信孝、信包、信澄の連枝衆もそれぞれの兵を率いて、一益、長秀、蜂屋頼隆らも参陣、さらに十兵衛も丹後から引き返して大坂攻めの軍に加わった。

 丹波から播磨への道の確保は、藤孝に任せているとのこと………………

 四月四日、信忠を総大将として大坂への出陣。

 五日、六日の二日間で大坂一帯の麦畠を薙ぎ払い、引き揚げた。

 七日、殿は二条の邸宅に神保長住を呼び寄せ、黄金百枚・しじら百反を与え、斎藤利治さいとうとしはる佐々長穐さっさながあきらをつけ、飛騨経由で越中へと向かわせた。

 同じ日に、毛利の本隊が大群をもって東進してくるという報せを受けた。

 三木城を包囲している秀吉だけでは対応できまいと、荒木村重を派遣。

 同時に、丹波にも一益、長秀、そして十兵衛の三将を遣わす。

 丹波は十兵衛の差配だが、毛利に備えるために、そうそうに防衛線を抑えよとの殿の命から、一益、長秀のふたりが助力に加わった。

 十日、波多野氏家臣荒木氏綱あらきうじつなの居城である荒木城(細工所城)を包囲、城に流れ込む水路を止め、干上がるのを待った。

 抵抗をつづけた氏綱であったが、これまでと首を垂れ、城を受け渡し、十兵衛が留守居役として城に残って丹波一帯の防衛線を築いた。

 報せの通り、毛利軍が播磨・備前・美作の国境まで攻め寄せてきた。

 尼子勝久あまこかつひさが守る上月城を包囲。

 ひと時は、山陰・山陽八か国にまで勢力を広げた尼子氏であったが、居城月山富田城を失い滅亡。

 勝久の父義久よしひさは毛利に幽閉、勝久は逃げ延び、家臣山中鹿介幸盛やまなかしかのすけゆきもりとともに信長の配下に入り、尼子氏再興のときを待っていた。

 秀吉が播磨攻めを行うと、その時が来たと進んで先陣をかけ、宿敵毛利氏との戦に備えて最前線の上月城を守っていた。

 勝久ら尼子勢とすれば、敵が向こうからやってきてくれたのだから、願ったり叶ったり。

 だが、守りは数千。

 一方の毛利軍は、毛利輝元てるもとを総大将として、叔父の吉川元春きっかわもとはる小早川隆景こばやかわたかかげ、宇喜多直家の弟忠家ただいえ、さらに水軍も用いて、その数三万。

 毛利軍は城を囲んだ後、むやみに攻めず、周囲に陣城や堀、柵を築き、連日連夜ほら貝を吹き鳴らし、太鼓を叩くなど敵を煽りながら、兵糧攻めとした。

 秀吉も、村重とともに上月城救援のため、その東にある高倉山にあがったが、眼下の熊見川のせいで容易には近づけない。

 東播磨には毛利に呼応した三木城の長治らの播磨衆、さらに播磨灘は毛利水軍 ―― 気がつけば、秀吉は完全に包囲されていた。
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