本能寺燃ゆ

hiro75

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第四章「偏愛の城」

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 謀反は続く。

 今度は播磨で旗を翻したものがいた。

 別所長治である。

 正月の茶会に招待されたことに意気揚々だった秀吉が、再び播磨に入り、加古川城に兵を、自らは書写山に本陣を置き、さてこれから、まだ大殿に従わぬ輩を退治しようかというときだった。

 長治が三木城に立て籠った。

 この様子をみた播磨の諸将も、次々に織田に反抗した。

 この一報を聞いたとき、

「何かの間違いであろう、〝猿〟ではないのか? あの別所が?」

 と、殿も驚いていた。

 播磨の別所氏は、赤松家の家臣であったが、その内紛に乗じ独り立ち、三木城を中心とした東播磨を制圧した。

 長治は、播磨の諸将としては早い折から信長の配下に入っていた。

 その彼が背を向けた。

「儂、何かしたかの?」、殿は不思議そうに首を傾げる、「いや、儂は何もしておらんぞ。どうせ〝猿〟が功を焦って、無礼を働いたのであろう。あのうつけが! いや、あやつが毛利や公方と手を組んで、唆しておるやもしれん。響談きょうだんに、ようよう探らせよ」

 詳細が分かったのは、殿が相撲を観覧されている最中である。

 二月二十九日に、近隣の力士三百名を安土に呼び寄せ、大男たちのぶつかり合いを楽しんだ。

 なかでも優れた力士二十三人 ―― 東馬二郎とうまじろう、たいとう、日野長光ひのちょうこう、正権、妙仁、円浄寺、地蔵坊、力円、草山、平蔵、宋永、木村伊小介、周永、あら鹿、づこう、青地孫二郎、山田与兵衛、村田吉五、太田平左衛門、大塚新八、麻生三五、下川弥九郎、助五郎には褒美として扇を、特に長光には金銀をあしらった扇を、行司二人 ―― 木瀬蔵春庵、木瀬太郎大夫にも衣を与えた。

「どうじゃ、太若丸、乱丸、大男同士が裸になり、鬼の形相でぶつかり合う様子、楽しいではないか」

「左様でございます。薄桃色に染まった肉が、岩のように盛り上がり、身体から白い煙のように湯気が立ち上がる姿は、惚れ惚れいたしまする」

 乱の目がきらきらとしている。

「うむ、乱丸はあのような男が好きなのか……、儂もあのぐらい肉があればよいのだが………………」

 殿は、自分の腕や胸をさする。

 確かに、殿は痩せ気味である ―― ほどよく肉はついているのだが………………

「そんなことはございません。殿のお身体も、お綺麗ですよ。某は、殿の若獅子のような張りのある身体のほうが好きです」

 と、乱はしな垂れかかる。

 殿は、「愛いやつじゃ」と、乱の身体を弄る。

 皆が見ている前で………………太若丸は、ごほんと咳払いした。

 後ろに近習が控えている。

「なんじゃ?」

 と、殿は面倒臭そうに振り返った。

 近習は何事か耳元で囁く。

 殿は、うむと頷き、

「儂はちょっと席を外すが、皆はまだまだ楽しんでくれ」

 と、宴席を立った。
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