本能寺燃ゆ

hiro75

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第四章「偏愛の城」

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「それまでは兄のもとにおりましたが、先の五月ごろに、こちらに仕えるようにと兄から言い渡されました」

「うむ、それではすぐさま儂のところに来ればよいものを。三左の息子ならば、すぐにでも儂の傍に置くものを」

「兄から、大殿はそういった出過ぎたことを嫌われると聞き及んでおりましたので、控えておりました」

「なにが出過ぎたことか。気性が荒く、一番出過ぎておるのはあやつではないか」と、殿は笑った、「うむ、しかし当主のいいつけを守るとは酷く感心なことだ。また、昨日の働き、あっぱれであった。何か欲しいものがあるか?」

「欲しいものなど、何もございませぬ。こうして、殿の小姓としてお仕えできることが何よりも褒美と存じます」

「歯の浮いたことを申すでないわ」

 と、殿は笑った。

「恐れ奉りまする」

「しかし、何もいらぬでは、この儂の気が収まらん、うむ、なんぞ………………」、しばし考えたのち、「ならば、太若丸とともに、儂の傍に控えよ」

「有難き幸せ」

「太若丸、ようよう面倒をみてやれ」

 承りましたと頭を下げた。

 乱は、そのまま下がろうとした。

「どこへ行く、乱丸」

 呼び止められて、きょとんとしている ―― その顔は、まだ子供っぽい。

「今宵からぞ、ほれ、こっちに」

 殿は手招きする。

 乱は、ちらりとこちらに視線を寄こす ―― 行ってよいものか?

 太若丸は頷いた。

 乱は、恐る恐る殿の傍に座る。

 殿は、乱の肩をぐっと抱き、顔を覗き込む。

「うむ、太若丸も美形じゃが、おぬしも美形よのう。まことに三左の子か? おぬしには公家の血が混じっておるのではないか? 太若丸には艶やかな美しさがあるが、おぬしには涼しげな美しさがある、そう、まさに切れ味の良い刀」

 殿は、うむうむと乱の顔を舐めるように見つめる ―― これは………………

「太若丸、寝所へ参るぞ」

 太若丸は、襦袢姿になって横たわった。

 乱は………………、躊躇いもなく着物を脱ぐ ―― 初めての夜だと、戸惑うものだが………………慣れているのか?

 乱も太若丸の横に寝そべると、殿が覗き込む。

「うむうむ、両手に花とは、このことか?」

 それは、ちょっと違うような………………

「おぬしは愛いのう」

 殿は、太若丸にそっと接吻する。

「こっちも愛いのう」

 今度は、乱に口づけする。

 太若丸はいつものことが、乱は………………殿を受け入れている。

 ―― 初めてだと、緊張するし、どうしていいのか分からぬがものだが………………

    やはり経験があるのか?

    まあ、これほど美しければ、それなりの経験もあろう………………

 殿は、太若丸と乱に口づけを繰り返す。

 それは、口から頬、首筋、胸元、乳首………………全身に舌を這わせていく。

 いつもながら、殿はねちっこい ―― 意外に癖になる………………というか、興奮してきてしまう。

 乱も、興奮しているようだ ―― 椿のような口元から少女のような吐息を吐く ―― 見れば、裾の間から若武者がひょこりと飛び出している。

「うむうむ、ここも美形じゃのう」

 殿はけらけらと笑う。

 太若丸も噴き出しそうになった。
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