340 / 498
第四章「偏愛の城」
65
しおりを挟む
十一月十八日、殿は、金銀ぎらぎらと着飾った小姓や馬廻組に守られ、自慢の鷹を一羽連れながら、鷹狩り装束のまま御所に参内。
一番手の御弓衆百人は虎の皮で作った靭を背負い、続く御年寄衆も着飾り、鷹を何匹も連れて、禁裏に入った。
その様子を見た都の人々は、
「なんと荘厳な馬行列か!」
と、楽しみ、
「やはり、これからは織田殿の世であるな」
と、噂しあった。
飾り衣装の馬にまたがった殿が姿を現すと、より一層の歓声があがった。
「なんとまあ、神々しいお姿!」
「まさに天下の大将軍!」
西国に義昭がいるのに、京の人々からすれば、すでに信長こそが〝征夷大将軍〟なのだ。
見学にきた人々から「将軍様!」「公方様!」と声があがる。
普段は、『官職など役に立たん』などと言っているが、誇らしげに胸を張っている姿を傍目で見ていると、殿も可愛らしいとろこがあるなと思い、太若丸も殿に恥は掻かせられぬと胸を張った。
「ありゃ、殿が女子を連れていらっしゃる」
「ほんまに綺麗な子やな」
「どこぞのお公家の娘かな?」
「いや、あれは男ぞ」
「ほう、男かい」
「いや~ん、惚れ惚れするほどええ男や」
傍に仕えていた太若丸にも、京の人々から歓声があがる。
「お武家様、こっち見て!」
「こっちや、こっち!」
ふと視線を寄こすと、女たちが悲鳴に近い声をあげた。
その声に驚いたのか、太若丸の馬が暴れだした。
手綱を強く引っ張るが、それが気に障るのか、よけに暴れまくる。
とうとう転げ落ちてしまった。
受け身をとって、何とか顔から落ちるのは免れたが、背中を打ち付けた痛さにしばらく蹲っていると、暴れ馬がこちらに向かってくる。
見物人たちから悲鳴があがる。
駄目だ、踏みつぶされる………………と思った瞬間、ひとりの小姓が太若丸の前に進み出た。
「どうどう! どうどう!」
手綱をしっかりと掴んで、両足で踏ん張りながら、馬を止めた。
馬が静かになったのを分かると、小姓はそれを別の小姓に任せ、彼は太若丸に駆け寄り、助け起こした。
「お怪我はございませぬか?」
太若丸の顔を覗き込む小姓もまた、美形である。
「あら、あの子もええやないの」
「まるで、〝桜梅の少将〟さんみたいやな」
二人の姿は、まるで恋仲の侍と公家の娘のようである。
「やっぱり、美男は映えるわ!」
と、その様子を見ていた町屋の女たちが頬を赤らめながら騒いだ。
大丈夫、ひとりで立てると言ったが、小姓は太若丸の手を取り、起こしてくれる。
「太若丸、大事ないか?」
殿に声をかけられ、はいと頷いた。
ほっと一息ついて少年の顔を見ると、つい半年ほど前に入ったばかりの小姓である ―― 名は………………何であったか?
「助かったぞ、えっと………………」
殿も覚えていないようだ。
少年が名乗ろうとすると、
「内裏への参内が先じゃ。おぬしは、夜にでも儂のところにこい、褒美を取らす。ゆくぞ、太若丸」
殿は、急いで日華門に入っていった。
太若丸も、小姓に頭を下げ、殿に続いた。
殿は、一頻り帝に鷹を自慢したあと、達智門から退出し、東山で鷹狩りを催した。
折しも大雪となり、自慢の鷹は風に煽られ、大和のほうへと流されていった。
近習や家臣たちは、大慌てで追いかけていく。
「よいよい、あれは〝猿〟と違って忠義者、裏を返すこともなかろう。そのうち戻ってこよう」
と、鷹が飛び去ったほうをみていた………………幾分、寂しげな様子だったが………………
一番手の御弓衆百人は虎の皮で作った靭を背負い、続く御年寄衆も着飾り、鷹を何匹も連れて、禁裏に入った。
その様子を見た都の人々は、
「なんと荘厳な馬行列か!」
と、楽しみ、
「やはり、これからは織田殿の世であるな」
と、噂しあった。
飾り衣装の馬にまたがった殿が姿を現すと、より一層の歓声があがった。
「なんとまあ、神々しいお姿!」
「まさに天下の大将軍!」
西国に義昭がいるのに、京の人々からすれば、すでに信長こそが〝征夷大将軍〟なのだ。
見学にきた人々から「将軍様!」「公方様!」と声があがる。
普段は、『官職など役に立たん』などと言っているが、誇らしげに胸を張っている姿を傍目で見ていると、殿も可愛らしいとろこがあるなと思い、太若丸も殿に恥は掻かせられぬと胸を張った。
「ありゃ、殿が女子を連れていらっしゃる」
「ほんまに綺麗な子やな」
「どこぞのお公家の娘かな?」
「いや、あれは男ぞ」
「ほう、男かい」
「いや~ん、惚れ惚れするほどええ男や」
傍に仕えていた太若丸にも、京の人々から歓声があがる。
「お武家様、こっち見て!」
「こっちや、こっち!」
ふと視線を寄こすと、女たちが悲鳴に近い声をあげた。
その声に驚いたのか、太若丸の馬が暴れだした。
手綱を強く引っ張るが、それが気に障るのか、よけに暴れまくる。
とうとう転げ落ちてしまった。
受け身をとって、何とか顔から落ちるのは免れたが、背中を打ち付けた痛さにしばらく蹲っていると、暴れ馬がこちらに向かってくる。
見物人たちから悲鳴があがる。
駄目だ、踏みつぶされる………………と思った瞬間、ひとりの小姓が太若丸の前に進み出た。
「どうどう! どうどう!」
手綱をしっかりと掴んで、両足で踏ん張りながら、馬を止めた。
馬が静かになったのを分かると、小姓はそれを別の小姓に任せ、彼は太若丸に駆け寄り、助け起こした。
「お怪我はございませぬか?」
太若丸の顔を覗き込む小姓もまた、美形である。
「あら、あの子もええやないの」
「まるで、〝桜梅の少将〟さんみたいやな」
二人の姿は、まるで恋仲の侍と公家の娘のようである。
「やっぱり、美男は映えるわ!」
と、その様子を見ていた町屋の女たちが頬を赤らめながら騒いだ。
大丈夫、ひとりで立てると言ったが、小姓は太若丸の手を取り、起こしてくれる。
「太若丸、大事ないか?」
殿に声をかけられ、はいと頷いた。
ほっと一息ついて少年の顔を見ると、つい半年ほど前に入ったばかりの小姓である ―― 名は………………何であったか?
「助かったぞ、えっと………………」
殿も覚えていないようだ。
少年が名乗ろうとすると、
「内裏への参内が先じゃ。おぬしは、夜にでも儂のところにこい、褒美を取らす。ゆくぞ、太若丸」
殿は、急いで日華門に入っていった。
太若丸も、小姓に頭を下げ、殿に続いた。
殿は、一頻り帝に鷹を自慢したあと、達智門から退出し、東山で鷹狩りを催した。
折しも大雪となり、自慢の鷹は風に煽られ、大和のほうへと流されていった。
近習や家臣たちは、大慌てで追いかけていく。
「よいよい、あれは〝猿〟と違って忠義者、裏を返すこともなかろう。そのうち戻ってこよう」
と、鷹が飛び去ったほうをみていた………………幾分、寂しげな様子だったが………………
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる