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第四章「偏愛の城」
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十月一日、信忠は信貴山を目指して出陣、その夜は山岡景隆の城に宿泊、翌日には真木島に入る。
同じく一日、十兵衛、藤孝、順慶の軍が片岡城を攻撃。
片岡城は、信貴山の東南にある城で、松永の一味である森秀光、海老名勝正ら千余りが立て籠もっていた。
敵も死に物狂いで防戦するため、かなりの激戦になったようだ。
惟任(明智)軍だけでも屈強な部下を二十人ほど、長岡軍も三十人近くが討ち死にしたらしい。
その中で、藤孝の息子たち熊千代(忠興)十五歳・頓五郎(興元)十三歳が、大人に負けぬ奮迅ぶりを見せ、これを何とか打ち破ることができたらしい。
前線からの報せを聞いた殿は、
「与一郎は、下津といい、息子たちといい、良き武士たちを持っておる」
と、ひどく感心していた。
「二人に感状をやらねばならぬな」
祐筆に筆をとらせようとしたとき、近習が入ってくる。
「柴田殿より、上杉勢、七尾城へと引き上げたとの趣旨」
「まことか?」
「柴田殿、上杉の再度の進軍に備え、御幸塚、大聖寺に砦を築き、佐久間玄蕃允(盛政)、拝郷五左衛門(家嘉)を城将とし、越前へ帰陣!」
「うむ、あい分かった。これで、当面北の憂いはなくなった。じっくりと弾正殿の退治と参ろうか」
十月三日、信忠は大和へ侵攻、信貴山城下をことごとく焼き払い、着陣。
片岡城を落とした十兵衛たちも合流し、その数四万。
総大将は織田秋田城介信忠、副将格に佐久間信盛、惟住(丹羽)長秀、羽柴秀吉、惟任(明智)光秀、十兵衛の与力として長岡(細川)藤孝、陽舜房(筒井)順慶らが参陣。
まさに、織田家の威信をかけた戦である。
この数を見れば、然しもの久秀も首を垂れてくるのではと思っていたが、城門を固く閉ざし、徹底抗戦の構え。
五日に始まった戦は、信貴山から二百余りの兵が飛び出して、死に物狂いで攻めてきた。
初戦は、織田側の兵に多くの死傷者を出してしまう。
「弾正殿も、なかなかやるのう。じゃが、この兵力差では二、三日も持つまいて」、信長は前線からの報せに耳を傾けながら、「心残りがあっては、見苦しい最期になろうて。吉兵衛(村井貞勝)に早々に孫たちの首を切らせい」
松永久秀の孫 ―― 久通の息子たち二人は、六条河原で首を切られた。
貞勝の書状によれば、この処刑を見ようと、多くの見物人が集まったらしい。
息子たちは、その状況にも動揺せず、西に向かって静かに手をあわせ、念仏を唱えたという。
孫たちの死から数日後、信貴山城は落城した。
同じく一日、十兵衛、藤孝、順慶の軍が片岡城を攻撃。
片岡城は、信貴山の東南にある城で、松永の一味である森秀光、海老名勝正ら千余りが立て籠もっていた。
敵も死に物狂いで防戦するため、かなりの激戦になったようだ。
惟任(明智)軍だけでも屈強な部下を二十人ほど、長岡軍も三十人近くが討ち死にしたらしい。
その中で、藤孝の息子たち熊千代(忠興)十五歳・頓五郎(興元)十三歳が、大人に負けぬ奮迅ぶりを見せ、これを何とか打ち破ることができたらしい。
前線からの報せを聞いた殿は、
「与一郎は、下津といい、息子たちといい、良き武士たちを持っておる」
と、ひどく感心していた。
「二人に感状をやらねばならぬな」
祐筆に筆をとらせようとしたとき、近習が入ってくる。
「柴田殿より、上杉勢、七尾城へと引き上げたとの趣旨」
「まことか?」
「柴田殿、上杉の再度の進軍に備え、御幸塚、大聖寺に砦を築き、佐久間玄蕃允(盛政)、拝郷五左衛門(家嘉)を城将とし、越前へ帰陣!」
「うむ、あい分かった。これで、当面北の憂いはなくなった。じっくりと弾正殿の退治と参ろうか」
十月三日、信忠は大和へ侵攻、信貴山城下をことごとく焼き払い、着陣。
片岡城を落とした十兵衛たちも合流し、その数四万。
総大将は織田秋田城介信忠、副将格に佐久間信盛、惟住(丹羽)長秀、羽柴秀吉、惟任(明智)光秀、十兵衛の与力として長岡(細川)藤孝、陽舜房(筒井)順慶らが参陣。
まさに、織田家の威信をかけた戦である。
この数を見れば、然しもの久秀も首を垂れてくるのではと思っていたが、城門を固く閉ざし、徹底抗戦の構え。
五日に始まった戦は、信貴山から二百余りの兵が飛び出して、死に物狂いで攻めてきた。
初戦は、織田側の兵に多くの死傷者を出してしまう。
「弾正殿も、なかなかやるのう。じゃが、この兵力差では二、三日も持つまいて」、信長は前線からの報せに耳を傾けながら、「心残りがあっては、見苦しい最期になろうて。吉兵衛(村井貞勝)に早々に孫たちの首を切らせい」
松永久秀の孫 ―― 久通の息子たち二人は、六条河原で首を切られた。
貞勝の書状によれば、この処刑を見ようと、多くの見物人が集まったらしい。
息子たちは、その状況にも動揺せず、西に向かって静かに手をあわせ、念仏を唱えたという。
孫たちの死から数日後、信貴山城は落城した。
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