本能寺燃ゆ

第四章「偏愛の城」

５９

「此度の戦が終われば、〝猿〟に播磨を攻めさせようと思っておったが、あれに代わり、伊予守（滝川一益）を遣わす」

　もともと秀吉には播磨攻めの仕度をさせていた。

　それを七尾城の救援のために、急遽勝家の下に遣わした経緯がある。

「まあ、それが宜しいかと」

　信盛と秀貞は、「御尤も」と頷いた。

　だが、十兵衛は違ったようだ。

「あいやしばらく」

「なんじゃ？　伊予守では駄目か？」

「滝川殿が云々かんぬんではなく、そのまま羽柴殿に播磨に遣わしてはいかがかと？」

　殿だけでなく、信盛や秀貞も眉を寄せる。

　太若丸も、十兵衛のことを無条件に信を置きたいが、この言葉には首を傾げずにはいられない。

「仮に羽柴が室町殿や毛利とつながっておれば、播磨の武将どもをまとめあげ、毛利とともに裏を返すようなことになれば……………」

　信盛の懸念は尤もだ。

　殿も頷く。

「ですから、わざと当て、様子を見まする」

「なに？」

「仮に公方様、毛利、大阪方などと通じておれば、これを手元に抱え込んでいるほうが面倒になりまする。いっそ播磨に遣わし、毛利とともに一緒に潰したほうが得策かと。仮に通じていないのであれば、それはそれでよし、そのまま播磨、備前、安芸へと足を延ばして毛利を叩き潰してもらえば良いこと」

「叩き潰せるか？　毛利と羽柴が組んだ場合に？」

「その際は、某が総大将として羽柴殿を討ちましょうぞ」

　なるほど、そういう考えか。

　この際だ、将来十兵衛が天下を差配するときに障害となりそうな武将を、今から排除しておこうということだ。

　流石は十兵衛である。

「よう言うた、十兵衛！」

　殿も、十兵衛の考えに納得いったようだ。

「その時は、頼りにしておるぞ」

　十兵衛は、深々と頭を下げた。