本能寺燃ゆ

hiro75

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第四章「偏愛の城」

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「それは、如何様なことで?」

「あれは……、必ず裏を返す」

「大殿は、羽柴が裏切ると?」

「あれを見てきて分からぬか?」

 信盛は首を傾げる。

「妻を差し置いて、美女と聞けば、誰構わず尻尾を振るようなやつに信を置けようか? のう、十兵衛」

 十兵衛は「御意に」と頷く。

 確かに、秀吉の女好きは有名だ。

 毎回毎回奥方には怒られているようだが、もう病のようなものである。

「まあ、それは半ば戯言だとして、あの目は見ていれば、こいつは、いつかは裏切ると思っておった」

「目でござりまするか? 羽柴といえば……、いつも笑っている顔しか思い浮かびませぬが………………」

 確かに。

「あの顔で、人は騙されるのよ。顔は笑っていても、目は笑っておらんだろう」

「まあ、そういわれれば………………」

「儂が、なぜあやつを〝猿〟と呼ぶか分かるか?」

「顔が……」

「顔なら、あれは〝鼠〟じゃろうが」

 にょきっと出た口元に、細かな目元、ちょこちょこと動き回る姿は、確かに〝猿〟よりは、〝鼠〟だ。

「儂が〝猿〟と呼ぶのは、猿知恵が働くからじゃ」

 殿は、己の頭をとんとんと突いて見せる。

「本人は、随分考えて色々と動いているようじゃが、所詮は〝猿〟の浅知恵、儂にはすべてお見通しじゃ。あいつは、猿山の大将になろうと虎視眈々と狙っておる」

「猿山の大将とは?」

「天下人……」

「まさか! たかが百姓の小倅が?」

 信盛は首を傾げる。

「そのまさかが起こるのが、この世であろう。そのまさかで、弾正殿が裏切り、〝猿〟が勝手に退いた。その気がなければ、左様なことはすまい?」

「羽柴が、天下ですか………………」

「まあ、天下とは言わずとも、良き条件がでれば、そちらに靡くこともあろう」

「どちらに?」

「公方に」

「大殿は、この一件に室町殿が絡んでおると?」

「公方か、それとも毛利か……、いずれにしろ、右衛門尉、十兵衛、信貴山攻めの際はよくよくあれを見張れ。五郎左は、懐柔されておるようじゃが……、佐渡守は、あれが勘九郎によからぬことをせぬように、十分目を光らせよ」

「畏まり候」

 三人は頭を下げる。
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