本能寺燃ゆ

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第四章「偏愛の城」

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「佐渡守……、あれに任せたのは過ちであったかの?」

「あれとは?」

「勘九郎のことじゃ。あれに織田家当主を任せたのは、儂の過ちであったかの?」

「今更そう申されましても………………」

 秀貞は、真っ白な眉を寄せる。

「織田家の宿老として、父上、儂とみてきて、あれに織田を守る力量がありや? なしや?」

「もし、なければ………………」

「父上が粉骨砕身して築き上げた織田家を、勘十郎(弟の信行)を犠牲にしてまで築き上げたこの織田家を、儂の代で途絶えさせては、儂は父上や勘十郎に顔向けができん。おぬしも、織田の宿老として、このままでは死んでも死に切れんだろう?」

「包み隠さず申せば………………」

「遠慮などいらぬ!」

「お父上や大殿を見ていると、織田家の当主としては心許ないと申しますか………………、大殿が、この織田家を如何様にしようとお考えかは存じませぬが、仮に将軍家として天下を差配されるのであれば、殿には………………」

「あれに、天下を任せるつもりはない。あれは、あくまで織田の跡取りじゃ。じゃが、それさえ器量がないというか?」

「ほかの家は存じませぬが、織田家の主としては………………」

「おぬしが傍にいてもか?」

「某にも限りがございます。織田家のために、殿には誠心誠意お仕えしておりますが、それを殿が汲んでいただけるか?」

「儂も、やりたい放題だったがな」

「大殿は……、大殿として、織田家を守るという芯がおありでした。ですが、殿は………………」

「あれにはないか?」

「人の話を聞くのは良いことですが、余計なものの話まで聞くと、織田家のかじ取りを間違えかねませぬ」

「うむ……………」

 信長は、脇息に頬杖をついて、考え込んだ。

 しばらくして………………、

「三人とも、もちとちこう」

 三人は前に進み出る。

「もちと」

 顔を突き合わせるほど近づくと、

「〝猿〟には……、気をつけよ」

 殿は、小声で言った。

 三人は顔を見合わせる。
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