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第四章「偏愛の城」
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後日、勝家からの書状が届いたが、それに目を落としている殿は、明らかに苛々している。
「柴田殿の様子は……、如何でしょうや?」
こういう時に声をかけられるのは、古参の信盛だけだ。
「どうもこうもない!」
書状をくしゃくしゃに握りつぶし、床に叩きつけるように投げつけた。
太若丸がそれを拾い上げ、袖に入れようとすると、信盛が見せろと手を出した。
信盛は、くしゃくしゃになった紙を広げ、目を落とす。
「ふむふむ……、上杉に、完全にしてやられましたな。まあ、柴田殿のこと、何とか抑え込むでしょうが………………」
北陸の戦況、はなはだ宜しからず。
「この状況で、信貴山攻めは聊か難しいかと………………」
長岡(細川)藤孝の言葉に、隣にいた十兵衛も頷いた。
「しかも、今宵の箒星は………………」
戌の刻(午後八時頃)に、西の方角に箒星が見えた。
これは禍だと、ほかの小姓や近習たちがこそこそと話している。
もちろん、殿の耳に入れるわけにはいかないが、殿もなんとなく察しているようだ。
とかく、武将は験を担ぐ。
些細な吉凶でも気にする。
箒星が現れたとなれば、猶のこと。
天そのものが、織田家の行く末を遮っているようだ。
「星ごときで、戦に後れをとるか、右衛門尉!」
「左様なことでは………………」
「勘九郎も、岐阜の兵をもって参着した」
信長の命で、岐阜から兵を出した信忠は、近江肥田を通り、安土の惟住(丹羽)長秀のもとに逗留している。
「明日には出陣じゃ! 十兵衛、与一郎も、大和の陽舜房殿と山城衆をつれ、片岡を攻めよ!」
十兵衛と藤孝は頭を下げた。
「柴田殿の様子は……、如何でしょうや?」
こういう時に声をかけられるのは、古参の信盛だけだ。
「どうもこうもない!」
書状をくしゃくしゃに握りつぶし、床に叩きつけるように投げつけた。
太若丸がそれを拾い上げ、袖に入れようとすると、信盛が見せろと手を出した。
信盛は、くしゃくしゃになった紙を広げ、目を落とす。
「ふむふむ……、上杉に、完全にしてやられましたな。まあ、柴田殿のこと、何とか抑え込むでしょうが………………」
北陸の戦況、はなはだ宜しからず。
「この状況で、信貴山攻めは聊か難しいかと………………」
長岡(細川)藤孝の言葉に、隣にいた十兵衛も頷いた。
「しかも、今宵の箒星は………………」
戌の刻(午後八時頃)に、西の方角に箒星が見えた。
これは禍だと、ほかの小姓や近習たちがこそこそと話している。
もちろん、殿の耳に入れるわけにはいかないが、殿もなんとなく察しているようだ。
とかく、武将は験を担ぐ。
些細な吉凶でも気にする。
箒星が現れたとなれば、猶のこと。
天そのものが、織田家の行く末を遮っているようだ。
「星ごときで、戦に後れをとるか、右衛門尉!」
「左様なことでは………………」
「勘九郎も、岐阜の兵をもって参着した」
信長の命で、岐阜から兵を出した信忠は、近江肥田を通り、安土の惟住(丹羽)長秀のもとに逗留している。
「明日には出陣じゃ! 十兵衛、与一郎も、大和の陽舜房殿と山城衆をつれ、片岡を攻めよ!」
十兵衛と藤孝は頭を下げた。
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