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第四章「偏愛の城」
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孫が可愛い久秀のこと、必ずや折れると思ったのか?
それとも、松永との一戦を覚悟したのか?
いずれにしても、久秀は動かなかった。
仕方なく、矢部家定、福富秀勝に命じ、久秀の孫たちを永原の佐久間盛明の邸宅から京都所司代村井貞勝の屋敷へと移送させた。
「弾正殿は如何に?」
「城に籠ったままでござります」
「本当に首を落とすぞと、再度使いを出せ!」
早馬が飛ぶが、信貴城は固く門を閉じたままだった。
それでも、殿は久秀の処遇に悩んでいたようだ。
ただ気が合うだけなのか?
単なる茶飲み仲間としての矜持か?
それとも、あの男に殿の目にかなう、それ以上の才 ―― 『王たろうとするもの』としての才があるというのか?
何を迷われているのか?
殿は、ときとしてこういうことがある。
なんでもひとりで、すぐさま物事を決めるように見られているが、意外に思料深いというか、判断に悩むことが多い。
考えている間に、状況が悪化することが多いのだが………………
京都所司代の村井貞勝から書状が届く。
久秀の孫の処遇に関してである。
孫たちは、すでに覚悟をしているとのこと。
十三歳と十二歳 ―― 器量よしとのこと。
これらの首を切るのは、あまりに忍びない。
生かせば、きっと大殿のお役に立つだろうと、貞勝は何とかならぬかと働いたようだ。
孫たちに、
『明日にも内裏に駆け込み、助命の執り成しをしてくれるよう嘆願なさい』
と、髪を整えられる仕度をし、綺麗な着物も用意して、いつでも出奔できるようにしていたらしい。
だが、孫たちは、
『身なりのことはもっともなことでございますが、御助命をお聞き入れくださることはありますまい』
と、答えたという。
『それでは……、ともかく親兄弟に書状を認めるがよい』
と、紙と硯を与えたという。
彼らは筆をとり、紙に何事か走らせようとしたようだが、
『この際では、親に書状を送ったところで、何になりましょうや』
と、手を止め、
『これまで親身にしていただき、まことに忝く候』
とだけ書きつけ、預かり許の佐久間盛明に送ったという。
貞勝の書状には、何とかふたりの命を助けられないかと認められていた。
読み終えた殿は深いため息を吐き、
「弾正殿は、あの時からすでに覚悟を決めておったか………………」
と呟き、天を仰ぎ見た。
それとも、松永との一戦を覚悟したのか?
いずれにしても、久秀は動かなかった。
仕方なく、矢部家定、福富秀勝に命じ、久秀の孫たちを永原の佐久間盛明の邸宅から京都所司代村井貞勝の屋敷へと移送させた。
「弾正殿は如何に?」
「城に籠ったままでござります」
「本当に首を落とすぞと、再度使いを出せ!」
早馬が飛ぶが、信貴城は固く門を閉じたままだった。
それでも、殿は久秀の処遇に悩んでいたようだ。
ただ気が合うだけなのか?
単なる茶飲み仲間としての矜持か?
それとも、あの男に殿の目にかなう、それ以上の才 ―― 『王たろうとするもの』としての才があるというのか?
何を迷われているのか?
殿は、ときとしてこういうことがある。
なんでもひとりで、すぐさま物事を決めるように見られているが、意外に思料深いというか、判断に悩むことが多い。
考えている間に、状況が悪化することが多いのだが………………
京都所司代の村井貞勝から書状が届く。
久秀の孫の処遇に関してである。
孫たちは、すでに覚悟をしているとのこと。
十三歳と十二歳 ―― 器量よしとのこと。
これらの首を切るのは、あまりに忍びない。
生かせば、きっと大殿のお役に立つだろうと、貞勝は何とかならぬかと働いたようだ。
孫たちに、
『明日にも内裏に駆け込み、助命の執り成しをしてくれるよう嘆願なさい』
と、髪を整えられる仕度をし、綺麗な着物も用意して、いつでも出奔できるようにしていたらしい。
だが、孫たちは、
『身なりのことはもっともなことでございますが、御助命をお聞き入れくださることはありますまい』
と、答えたという。
『それでは……、ともかく親兄弟に書状を認めるがよい』
と、紙と硯を与えたという。
彼らは筆をとり、紙に何事か走らせようとしたようだが、
『この際では、親に書状を送ったところで、何になりましょうや』
と、手を止め、
『これまで親身にしていただき、まことに忝く候』
とだけ書きつけ、預かり許の佐久間盛明に送ったという。
貞勝の書状には、何とかふたりの命を助けられないかと認められていた。
読み終えた殿は深いため息を吐き、
「弾正殿は、あの時からすでに覚悟を決めておったか………………」
と呟き、天を仰ぎ見た。
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