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第四章「偏愛の城」
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裏で、公方が手を回したらしいとの噂もあったが………………、
「毛利もそうですが、上杉も同様、公方の言葉にほいほいと乗るほどうつけではござらん。公方を助ける、上洛するとは名ばかりで、あくまで己の所領を増やしたい、己の所領を盤石にしたいがためでござろう。もはや公方に、それ以上の使い道があるとも思いませぬが。巷では、上杉は〝義〟で動くとか云われておるようですが……、実際に接してみられて、如何ですか? 左様な男ござりますかな?」
前久は、謙信が上洛した際に意気投合、その後わざわざ越後まで出向き、謙信の関東進出を手助けしたこともあった。
その性格も、よくよく心得ているはずである。
「まあ、武将としては、珍しい部類とは思いますが………………」
「〝義〟に篤い男が、簡単に儂との縁を切ったりしますかな?」
前久は、なにやら複雑な顔をしている。
「なに、公方があまりにも煩く立ち回れば叩くだけ。とはいっても、あれは〝蛇〟、そうそう死にはすまいが……、まあ、実際に戦をするのは……、そう、毛利ですかな。毛利との戦になれば、大戦になるでしょう。その前に叩けるところは叩いておこうかと」
「いづれを?」
「まずは丹波……、播磨あたり……。丹波は惟任に、播磨は〝猿〟……羽柴あたりにやらせようかと」
「左様でござりまするか。ならばその際は、麻呂も方々働きましょうぞ」
「近衛殿には、またご苦労をかけまするな」
「なに、麻呂はこの生き方があっておりまする」
この御仁、藤氏長者(藤原一族の筆頭)となり、関白に就きながらも、実に腰が軽い。
必要とあれば、越後や関東、果ては鎮西にも赴き、各地の武将たちと交流する。
和歌・連歌、書に長けた文化人でありながら、馬術も鷹狩りもこなす武闘派な面も見せる。
そこが、信長とは気が合うようだ。
殿は、それを買って各地の武将たちとの折衝役を頼むのである。
信基の烏帽子親を引き受けたのも、その辺を値踏みした結果だろう。
実際、祝儀として贈ったものは、衣装十着、大刀を設えるための代金として一万疋、備前長船長光作の腰刀、金子五十枚と、決して安いものではなかったのだが………………
それでも、この親子ならばおつりがくると考えたのだろうが………………
「近衛殿も、そろそろ都に腰を添えて………………」
殿が口を開いたところで、近習たちの方からわっと喚声があがる。
信基と近習のひとりが相撲を初めている。
「これこれ」
と、前久は嗜めるが、
「いやはや、これは面白い」
と、殿は楽し気に相撲を見ていた。
「毛利もそうですが、上杉も同様、公方の言葉にほいほいと乗るほどうつけではござらん。公方を助ける、上洛するとは名ばかりで、あくまで己の所領を増やしたい、己の所領を盤石にしたいがためでござろう。もはや公方に、それ以上の使い道があるとも思いませぬが。巷では、上杉は〝義〟で動くとか云われておるようですが……、実際に接してみられて、如何ですか? 左様な男ござりますかな?」
前久は、謙信が上洛した際に意気投合、その後わざわざ越後まで出向き、謙信の関東進出を手助けしたこともあった。
その性格も、よくよく心得ているはずである。
「まあ、武将としては、珍しい部類とは思いますが………………」
「〝義〟に篤い男が、簡単に儂との縁を切ったりしますかな?」
前久は、なにやら複雑な顔をしている。
「なに、公方があまりにも煩く立ち回れば叩くだけ。とはいっても、あれは〝蛇〟、そうそう死にはすまいが……、まあ、実際に戦をするのは……、そう、毛利ですかな。毛利との戦になれば、大戦になるでしょう。その前に叩けるところは叩いておこうかと」
「いづれを?」
「まずは丹波……、播磨あたり……。丹波は惟任に、播磨は〝猿〟……羽柴あたりにやらせようかと」
「左様でござりまするか。ならばその際は、麻呂も方々働きましょうぞ」
「近衛殿には、またご苦労をかけまするな」
「なに、麻呂はこの生き方があっておりまする」
この御仁、藤氏長者(藤原一族の筆頭)となり、関白に就きながらも、実に腰が軽い。
必要とあれば、越後や関東、果ては鎮西にも赴き、各地の武将たちと交流する。
和歌・連歌、書に長けた文化人でありながら、馬術も鷹狩りもこなす武闘派な面も見せる。
そこが、信長とは気が合うようだ。
殿は、それを買って各地の武将たちとの折衝役を頼むのである。
信基の烏帽子親を引き受けたのも、その辺を値踏みした結果だろう。
実際、祝儀として贈ったものは、衣装十着、大刀を設えるための代金として一万疋、備前長船長光作の腰刀、金子五十枚と、決して安いものではなかったのだが………………
それでも、この親子ならばおつりがくると考えたのだろうが………………
「近衛殿も、そろそろ都に腰を添えて………………」
殿が口を開いたところで、近習たちの方からわっと喚声があがる。
信基と近習のひとりが相撲を初めている。
「これこれ」
と、前久は嗜めるが、
「いやはや、これは面白い」
と、殿は楽し気に相撲を見ていた。
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