本能寺燃ゆ

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第四章「偏愛の城」

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 二月二十八日、信長本陣が志立から丹和へと押し寄せる。

 十兵衛、藤孝、一益らの先鋒に、信忠らの第二陣、そこに本陣からの兵も加わり、猛攻をかけられた中野城は落城。

 信長はそのまま進み出て、信忠を中野城に置き、自らはその近くに野営した。

 その際、下津権内を召し上げ、その活躍を褒め称えた。

「そなたは、良き部下を持っておるな」

 陣屋から誇らしげに出ていく権内の背中を見送りながら言った。

「恐れ入りまする」

 己の部下を褒められ、藤孝も嬉しそうである。

「下津もよくよく活躍したが、与一郎(藤孝)もご苦労であったな。十兵衛も、病み上がりながら一番大変なところを進み、難儀であったであろう?」

「滅相もございませぬ」

 藤孝と十兵衛は頭を下げる。

 十兵衛の顔に、聊か精気を感じられないような気がするが………………やはり、まだ気力が完全ではないのか?

「左程の難所ではござりませぬ、大殿」

 一益が、むすっとした表情で口を挟む。

「ほう……、そうか?」

「たまたまくじで当たっただけ。某が当たっておれば、秋田城介(信忠)様の御力を借りることなく、早々に孝子峠を通り、中野を落としておったでしょう」

「それは……、運がなかったのう、伊予守いよのかみ(一益)」

 殿は、からからと笑う。

 一益は、苦々しい顔をしている。

 十兵衛が褒められたのが、よほど気に食わないのだろう。

 それほど、十兵衛は嫌われているのか?

「くじ運が良いか悪いかも、武将としての大事な力量じゃ。戦の勝ち負けは時の運、己の持ちうる運が強いか弱いかは大事であろう。まあ、そのくじが何事も細工なしにであればのことだが………………」

 殿の言葉に、家臣たちが顔を見合わせる。

 もしかして、くじに何か細工をした? ―― 十兵衛が不利になるように………………

 聊か不穏な雰囲気だ。

「大殿は、何かご不信を?」

 重苦しい雰囲気を破って、長秀が口を開く。

「何がじゃ?」

「此度のくじ引きに関して、何かおありかと? 吾ら、神仏の前にて、厳正にくじを引いた結果でございますが………………」

「いや、何もござらんよ」と、殿はすっとぼける、「おぬしらがそう言うのなら、何もなかったのじゃろう。別に疑っておるわけではない」

「それならば、宜しいのですが………………」

「まあ、神も仏も使いよう………………であろう、陽舜房殿」

「まさしく………………」

 陽舜房順慶が神妙に頷く。

「まあ、何れにしろ、与一郎、十兵衛、此度はご苦労であった。もちろん、みなのものもご苦労。今宵はゆっくりと休め、明日からは平井を攻めるでのう」
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