本能寺燃ゆ

hiro75

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第四章「偏愛の城」

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 雨があがった翌日、本隊は八幡から若江へ、その翌日には和泉の香庄へと移動。

 十七日、先鋒が雑賀衆の前線である貝塚を攻撃するも、すでにもぬけの空であった。

 同日、根来の杉乃坊も合流。

 翌日には佐野、二十二日には志立へと前進した。

 ここから軍を二手に分け、攻めさせる。

 杉乃坊、雑賀の三組を道案内として、大坂より呼び寄せた佐久間信盛、羽柴秀吉、荒木村重、別所長治、堀秀政ほりひでまさらが山側から進出、その後詰として稲葉一鉄いなばいってつ氏家うじいえ親子、飯沼長継いいぬまながつぐらが続く。

 滝川一益、惟住(丹羽)長秀、長岡ながおか(細川)藤孝ふじたか、陽舜房(筒井)順慶、そして殿が待ちわびた男 ―― 惟任(明智)光秀らが海岸側から進撃、これに信忠、信意(信雄)、信孝、信包の連枝衆が二陣として続いた。

 雑賀は紀州北西 ―― 紀ノ川一帯に広がる惣国 ―― 地侍らが集まる国である。

 紀ノ川河口北岸に十ヶ郷、その南岸に雑賀荘、上流南岸に中川郷、その南に社家郷、さらにその南に三上郷の五郷である。

 さらに上流にあがっていくと、根来がある。

 紀伊は古より、高野山に空海の金剛峯寺、真言宗系の紀三井寺、根来寺、道成寺、修験者の修行場である熊野三山など、寺社勢力の力が強い土地である。

 室町殿(足利氏)により畠山氏が紀伊の守護に任じられたが、朝廷であっても寺社地には勝手に手を出せない。

 必然、紀州における畠山氏の支配は限られていた。

 それを背景としているのだろう。

 雑賀一帯の侍たちは独立心が旺盛で、誰を主人と仰ぐこともなく、その地の支配者たちが横で連携する惣国として発展していく。

 紀ノ川河口は港町としても栄え、瀬戸内の終着点である難波に近いこともあり、漁港だけでなく、物流の拠点ともなった ―― その流れで海賊衆 ―― 水軍も発達した。

 鉄砲もいち早く取り入れている。

 本朝に鉄砲が伝えられたと云われるのは、天文十二(一五四三)年の種子島 ―― それ以前から本朝にはすでに鉄砲が入っていたとも云われるが………………

 この時、種子島領主であった種子島時尭ときたかが鉄砲二挺を買い入れる ―― 金で二千両だったとか………………

 その一挺が、翌年には根来に持ち込まれる。

 これは、時尭と、根来寺の僧兵頭であった杉ノ坊算長すぎのぼうさんちょうこと津田監物算長つだけんもつかずながが懇意であったことから、当代最新で、攻撃力の高い鉄砲を譲り受けることができたのである。

 算長は、刀鍛冶である芝辻清右衛門しばつじせいえもんに鉄砲を複製させ、天文十四(一五四五)年には紀州一号を完成、以来、紀州・堺は鉄砲の一大生産地となった。

 もちろん、根来の僧兵や雑賀の地侍はこの武器に飛びつき、鉄砲隊を組織することとなる。

 もともと名目上の守護である畠山氏の依頼で諸国の戦に参加することがあったが、この鉄砲隊が大活躍し、他国の武将からの出馬要請にも答えるようになる。

 鉄砲の名手も多い。

 砲術自由斎流の祖となった杉ノ坊照算すぎのぼうしょうさん(津田算長の次男)、雑賀には雑賀孫一さいかまごいちこと鈴木重秀すずきしげひで、元亀元(一五七〇)年に信長を狙撃した杉谷善住坊すぎたにぜんじゅぼうも、根来・雑賀のものではないかと云われている。

 その鉄砲隊を頼りにしたのが、大坂本願寺である。

 大坂は、鉄砲隊だけでなく、雑賀の水軍にも期待している。

 大坂本願寺の依頼に答えたのは、雑賀に一向門徒が多かったことによる。

 が、雑賀の地侍も一枚岩ではない。

 西の雑賀荘・十ヶ郷には浄土真宗の門徒が多いが、東の中川郷・社家郷・三上郷は浄土宗や真言宗、神道の信者が多い。

 大坂に肩入れするのを快く思っていない者も多く、東の三郷は織田側に付いた。

 根来寺も真言宗(正確には新義真言宗)で、むしろ織田には好意的………………真言宗本山である高野山の膝元に一向門徒たちがいては目障りなのもあるのだろう………………彼らもこちらに付いた。
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