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第四章「偏愛の城」
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確かに、太若丸はまだ独り身なので、連れ合いを亡くすという心境が分からない。
いや、今後女とかかわることはないので、分かることはないだろう。
家族を亡くすと思えばよいのか?
母は、物心がつくころにはすでにない。
父は、まだ健在………………と思う ―― もしかしたら、亡くなっているかもしれないが………………
姉は、行方知れず ―― これも、もう死んでいるかもしれない。
太若丸は、彼らの顔をぼんやりと思い浮かべ、亡くなったときのことを想像してみる。
―― 父が亡くなったら、吾は泣くであろうか?
姉を失えば、吾は悲しいだろうか?
太若丸は、首を傾げる。
どうも実感がわかない。
こんな世だ ―― 死とは隣り合わせ。
いつ、だれが、どこで死ぬか分からない。
「おぎゃ!」と産声をあげた瞬間に、刀で刺殺されるかもしれない。
水粥さえも啜れず、飢え死ぬかもしれない。
狼に襲われ、骨の髄までしゃぶられるかもしれない。
病にかかり、野垂れ死ぬかもしれない。
戦に巻き込まれ、武士や足軽連中に嬲り殺されるかもしれない。
その武士たちも、鉄砲で撃たれ、矢で射られ、槍で刺殺され、刀で切られ………………あげく、首を刎ねられるやもしれない。
赤子であろうが、大人であろうが、若者であろうが、年寄であろうが、男であろうが、女であろうが、まして百姓であろうが、商人であろうが、武士であろうが、公家であろうが、天長であろうが、死ぬときは死ぬのである。
年や男女、身分は違えど、死だけはみな等しくやってくる。
その死が、常に付きまとっている。
だから、覚悟はしている………………と、ばかりはいえない。
太若丸も、村にいるときから何度も野辺送りを見てきた。
死者の身内や親しかった人は泣いていた。
覚悟はあっても、やはり悲しいものだ………………
太若丸も、父や姉が亡くなれば、悲しいと思うだろう………………か?
十兵衛会いたさに、父を捨て、村を出た。
姉と離れる際、互いに何も言わずに別れた。
何年とともに暮らしてきて、様々な思い出があるはずなのに、父や姉と別れることに、なにも感じなかった。
―― 吾は、そういった気持ちが欠落しているのだろうか………………?
ただ、十兵衛と別れることになれば、悲しいだろう。
それが、永久の別れともなれば、どうなってしまうか………………?
正気ではいられまい。
泣き狂い、やがて自らも十兵衛のあとを追ってしまうかもしれない。
なるほど、そう思うと、愛する者を失うという気持ちが、分かる気がした。
十兵衛もいま、そんな心持なのだろうか………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………奥方が、羨ましいし、悔しい………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………だが、そんな女も死んだ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………十兵衛は、吾のものだ!
いや、今後女とかかわることはないので、分かることはないだろう。
家族を亡くすと思えばよいのか?
母は、物心がつくころにはすでにない。
父は、まだ健在………………と思う ―― もしかしたら、亡くなっているかもしれないが………………
姉は、行方知れず ―― これも、もう死んでいるかもしれない。
太若丸は、彼らの顔をぼんやりと思い浮かべ、亡くなったときのことを想像してみる。
―― 父が亡くなったら、吾は泣くであろうか?
姉を失えば、吾は悲しいだろうか?
太若丸は、首を傾げる。
どうも実感がわかない。
こんな世だ ―― 死とは隣り合わせ。
いつ、だれが、どこで死ぬか分からない。
「おぎゃ!」と産声をあげた瞬間に、刀で刺殺されるかもしれない。
水粥さえも啜れず、飢え死ぬかもしれない。
狼に襲われ、骨の髄までしゃぶられるかもしれない。
病にかかり、野垂れ死ぬかもしれない。
戦に巻き込まれ、武士や足軽連中に嬲り殺されるかもしれない。
その武士たちも、鉄砲で撃たれ、矢で射られ、槍で刺殺され、刀で切られ………………あげく、首を刎ねられるやもしれない。
赤子であろうが、大人であろうが、若者であろうが、年寄であろうが、男であろうが、女であろうが、まして百姓であろうが、商人であろうが、武士であろうが、公家であろうが、天長であろうが、死ぬときは死ぬのである。
年や男女、身分は違えど、死だけはみな等しくやってくる。
その死が、常に付きまとっている。
だから、覚悟はしている………………と、ばかりはいえない。
太若丸も、村にいるときから何度も野辺送りを見てきた。
死者の身内や親しかった人は泣いていた。
覚悟はあっても、やはり悲しいものだ………………
太若丸も、父や姉が亡くなれば、悲しいと思うだろう………………か?
十兵衛会いたさに、父を捨て、村を出た。
姉と離れる際、互いに何も言わずに別れた。
何年とともに暮らしてきて、様々な思い出があるはずなのに、父や姉と別れることに、なにも感じなかった。
―― 吾は、そういった気持ちが欠落しているのだろうか………………?
ただ、十兵衛と別れることになれば、悲しいだろう。
それが、永久の別れともなれば、どうなってしまうか………………?
正気ではいられまい。
泣き狂い、やがて自らも十兵衛のあとを追ってしまうかもしれない。
なるほど、そう思うと、愛する者を失うという気持ちが、分かる気がした。
十兵衛もいま、そんな心持なのだろうか………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………奥方が、羨ましいし、悔しい………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………だが、そんな女も死んだ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………十兵衛は、吾のものだ!
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