本能寺燃ゆ

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第四章「偏愛の城」

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 その毛利水軍が、大坂本願寺に兵量を運び入れるために、大船七、八百艘で押し寄せてきたのである。

 兵量を入れられ、大坂方が勢いついては面倒だと、織田側も船を出す。

 真鍋貞友、沼野伝内、沼野伊賀守いがのかみ、沼野大隅守おおすみのかみ宮崎鎌大夫みやざきかまだゆう、宮崎鹿目介かなめのすけらが、三百の船で木津川の河口を封鎖した。

 一方、本願寺側も毛利水軍に呼応し、手薄となった住吉の砦に襲い掛かってきた。

 これに、佐久間信盛が出馬し、戦になったという。

「八百の大軍に、三百程度で敵おうか? 右衛門尉も聊か心許ない。儂も出るぞ」

 殿は、早々陣触れ太鼓を鳴らした。

 確かに、ここ数年の信盛の戦ぶりを見ていると、殿の言葉も頷ける。

 太若丸が殿の出馬の仕度を手伝っていると、次の使番が駆け込んできた。

「申し上げます! 真鍋殿以下、果敢に奮戦するも、毛利方がこれを突破、本願寺に兵量を運び入れ、すでに引き上げたとのこと」

 村上水軍は、流石は海賊衆 ―― 海上戦というものをよくよく心得ている。

 織田側には、楼閣を組んだ大船 ―― 〝安宅船〟が数隻あった。

 大量の兵を乗せることができ、なおかつ楼閣や船の側面に開いた狭間から鉄砲や大鉄砲、矢を仕掛けることもできる。

 だが、図体がでかいので、小回りが利かない。

 これを守るために、小船 ―― 〝関船〟がある。

 さらに、〝関船〟よりも足が速い〝小早〟があり、物見や伝令に使われる。

 村上水軍は、〝小早〟を巧みに使う。

 警固船の間を抜け、数十隻で安宅船を取り囲む。

 行く場をなくし、焙烙火矢を投げ入れる。

 船上で弾けた焙烙火矢は、火を噴き上げ、船体を焼き尽くした。

 焙烙とは、素焼きの土鍋のような、丸い容器である。

 そのような入れ物に火薬を入れ、導火線に火をつけ、直接手で、または縄を付けて敵側へ投げ込む。

 投げ込まれた焙烙は爆発し、破片で周囲の人や物を殺傷、または炎上させる。

 これを木造の船でやられたら、ひとたまりもない。

 織田側の大船は、毛利水軍の〝小早〟による接近戦と、〝焙烙火矢〟という破壊力のある火器の前に、なすすべもなく、すべて焼き尽くされた。

 こうなれば勝負あったで、毛利水軍は悠々と木津川に入り、本願寺に荷物を下ろして引き上げていったらしい。

 真鍋貞友、沼野伝内、沼野伊賀守、宮崎鎌大夫、宮崎鹿目介ら、多数の戦死者を出したとか。

 住吉の砦では信盛が奮戦したが、本願寺に兵量が運び入れられたと知ると、敵は引き上げていったらしい。

「うむ~、大坂は水軍が要になるか……、なんぞ対策を考えんとな」

 結局、殿は出馬することなく、亡くなった貞友らの代わりに、保田安政やすだやすまさ(佐久間信盛の従甥)、碓井因幡守うすいいなばのかみ伊地知文大夫いじちふみだゆう、宮崎二郎七じろうしちを住吉砦へと入れた。
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