本能寺燃ゆ

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第四章「偏愛の城」

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 信長は七月に安土に引き上げ、引き続き城の普請を命じた。

 だが、先の戦の影響か、なかなか士気が上がらない。

 これはいかんと、信長は職人から人足、飯炊き女にいたるまで、金銀や唐物、着物などを分け与えた。

 また総普請奉行の惟住(丹羽)長秀には名物の「市の絵」を、羽柴秀吉には「瀟湘八景」の掛け軸を与えた。

 翌日から、見違えるほど動きが良くなった。

 人というものは、よくよく調子が良いというか、欲深いというか………………

 殿も、「人というのは、そういうものだ」と、笑っている。

「人というのは、欲の塊だ。それは、天朝であろうが、坊主であろうが、侍であろうが、商人であろうが、百姓であろうが皆同じ、もちろん儂もそうじゃ。美味いものを食いたい、腹いっぱい食いたい、良い着物を着たい、立派な屋敷に住みたい、名物の茶器や掛け軸を手に入れたいと思うから、人は汗水流して働き、銭を稼ぐ。それが、己の成長につながるのだ。それがなければ人など、とうの昔に滅んでおるわ」

 おっしゃる通りで………………

「他人よりも銭一文でも多ければ、それだけ一生懸命働く。銭一文で動きが良くなれば、安いものだ。銭というのは、そういうときに使うものだ。己の贅沢をしたいためだけに使っても、面白いこともあるまい」

 殿はそういって、家臣や下々の人たちに至るまで、惜しみなく金品を分け与えるのだ。

 そういったことも含めて、十兵衛に書状を送った。

 十兵衛から、殿の様子を逐一知らせてくれるように頼まれていたし、何より十兵衛の病状が知りたかった。

 書状とともに、殿から渡された薬や滋養のつくものを送った。

 しばらく返事はなかった。

 まだか、まだかと一日千秋の思いで待っていた。

 それよりも先に、天王寺砦の信盛から急ぎの使番がきた。

 毛利の水軍が、大群で押し寄せたとのこと ―― その数、七百から八百。

 本願寺の依頼で、兵糧を運んできたようだ。

 これにより、毛利は明確に敵になった。
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