本能寺燃ゆ

hiro75

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第四章「偏愛の城」

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 他の武将たちは、『それだけで?』と、不満顔だ。

 殿は、ちっと舌打ちをされ、

「此度の戦の総大将は、九郎左衛門(直政)じゃ。本来ならば、あれが責めを負うべきじゃが、一族ともに戦死した。これで十分じゃろう。それでも、おぬしらが納得せぬというのならば、あれの家臣をとらえ、追放、また順慶に命じ、九郎左の大和の所領を没収、一族郎党を追放、これを抱え込むこともならぬと云い渡せ」

 半ば切れ気味でいうと、勢いよく立ち上がり、どたどたと大きな音を立てて下がっていった。

 殿が、御立腹されるのも、分かるような気がする。

 兎も角、しばらく十兵衛は謹慎という名の静養にあたることとなった。

 哀れなるは、原田一族である。

 直政の生き残った家臣たちは捕らえられ、罪人として処断。

 大和にあった所領や名物も、筒井順慶によって没収、直政の妻子、一族郎党に至るまで追放された。

 総大将として、負け戦をしたのだから当たり前といえば、当たり前であろう。

 だが、もともと官吏肌である直政を総大将に据えたのが間違いだ。

 一番の責が誰にあるかと言えば………………殿である。

 それは織田軍をまとめる者として、当然である。

 もちろん、殿もそれは十分承知である。

 だが、自ら責めを負うことはできない。

 それこそ、織田の統制がとれなくなる ―― 現状、織田家の当主は信忠であるが、舵取りは依然信長である。

 殿以外で、織田をまとめることができようか?

 ならば、責任は誰が負うか?

 直政は戦死している。

 十兵衛は守りたい。

 しかし、家臣たちの不満を抑えねばならぬ。

 苦肉の策が、原田一族の処分であろう。

 原田一族の処分が終わったと聞いたときは、

「そうか………………」

 とだけ呟いて、しばらく呆けていた………………殿も、流石に死者に鞭打つことはしたくなかったのであろう。

 だが、そうまでして十兵衛を守りたかったのでは、なぜか?

〝王であろうとするもの〟と、殿は言っていたが…………………〝王〟がふたりいては、そのうち衝突するのでは?

 太若丸としては、そこまで十兵衛のことを想ってくれる殿に対して、足を向けて寝られない。

 だから、十兵衛のために、殿に尽くすのだが………………
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