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第四章「偏愛の城」
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「でじゃ、此度は九郎左衛門(原田(塙)直政)を総大将としたい」
「宜しいのではないでしょうか?」
「うむ、あれも儂の馬廻りからよく働いてくれた。長篠や越前での働きも目覚ましい。山城・大和もよくよく抑えておる」
直政は、もともと信長の馬廻り組で、赤母衣衆でもあった。
戦場に出て暴れまくるというよりは、信長の傍にあって淡々と事務処理をこなす、どちらかといえば、官吏肌である。
信長は、そこを見込んで一時期十兵衛とともに京を差配させたり、いまでは南山城や大和、河内一帯を差配させている。
大和など、陽舜房順慶(筒井順慶)、松永弾正久秀らや国人衆、法隆寺、興福寺、東大寺の寺社方など、一癖も二癖もある連中をまとめるのだから、相当な器量である。
そろそろ大将として大きな戦を経験させ、織田家臣団の中でも、ある程度の地位を安定させてやろうという、殿の親心であろうか?
「とはいうものの、総大将などと初めてで、あれも何かと気を揉むであろうから、おぬし、あれをよくよく助けてやってくれ」
「拙者でございますか?」
林佐渡守秀貞は、織田家の宿老としてそのまま信忠に付けている。
他に軍監として河尻肥前守秀隆も遣わしている。
家臣団筆頭の佐久間右衛門尉信盛は、手元に置いておきたい。
柴田修理亮勝家は越前である。
他の武将は、安土の普請で忙しい。
いまのところ手が空いているのは、十兵衛である。
「ひとりとは言わぬ。摂津守(荒木村重)、兵部大輔(長岡(細川)藤孝)も使わす。あと、右衛門尉(佐久間信盛)の息子(信栄)もつける」
大坂方には、この地に詳しい近畿勢をぶつけるつもりらしい。
「はぁ………………」
珍しく生返事だったので、殿の顔が険しくなった。
「なんじゃ、九郎左の下に付くのは不服か?」
「滅相もございませぬ…………………」
「おぬししか、できぬことじゃ」
「助太刀なら、拙者以外でも………………」
「本来ならば、儂が行きたいところじゃ。じゃが、儂も色々ある。そこで、おぬしを使わす。織田家中のなかで、儂の代わりができるのは、おぬしぐらいじゃぞ?」
「恐れ入りまする」
「何もこれは、大坂のことだけを言っておるのではない。以後の織田家、いや、天下のことを言っておるのだ。ゆくゆくは……、天下の差配は、おぬしに任せたい」
十兵衛は驚きの声をあげる。
太若丸も、扱っていた茶器を、思わず落としそうになった。
「宜しいのではないでしょうか?」
「うむ、あれも儂の馬廻りからよく働いてくれた。長篠や越前での働きも目覚ましい。山城・大和もよくよく抑えておる」
直政は、もともと信長の馬廻り組で、赤母衣衆でもあった。
戦場に出て暴れまくるというよりは、信長の傍にあって淡々と事務処理をこなす、どちらかといえば、官吏肌である。
信長は、そこを見込んで一時期十兵衛とともに京を差配させたり、いまでは南山城や大和、河内一帯を差配させている。
大和など、陽舜房順慶(筒井順慶)、松永弾正久秀らや国人衆、法隆寺、興福寺、東大寺の寺社方など、一癖も二癖もある連中をまとめるのだから、相当な器量である。
そろそろ大将として大きな戦を経験させ、織田家臣団の中でも、ある程度の地位を安定させてやろうという、殿の親心であろうか?
「とはいうものの、総大将などと初めてで、あれも何かと気を揉むであろうから、おぬし、あれをよくよく助けてやってくれ」
「拙者でございますか?」
林佐渡守秀貞は、織田家の宿老としてそのまま信忠に付けている。
他に軍監として河尻肥前守秀隆も遣わしている。
家臣団筆頭の佐久間右衛門尉信盛は、手元に置いておきたい。
柴田修理亮勝家は越前である。
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いまのところ手が空いているのは、十兵衛である。
「ひとりとは言わぬ。摂津守(荒木村重)、兵部大輔(長岡(細川)藤孝)も使わす。あと、右衛門尉(佐久間信盛)の息子(信栄)もつける」
大坂方には、この地に詳しい近畿勢をぶつけるつもりらしい。
「はぁ………………」
珍しく生返事だったので、殿の顔が険しくなった。
「なんじゃ、九郎左の下に付くのは不服か?」
「滅相もございませぬ…………………」
「おぬししか、できぬことじゃ」
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「本来ならば、儂が行きたいところじゃ。じゃが、儂も色々ある。そこで、おぬしを使わす。織田家中のなかで、儂の代わりができるのは、おぬしぐらいじゃぞ?」
「恐れ入りまする」
「何もこれは、大坂のことだけを言っておるのではない。以後の織田家、いや、天下のことを言っておるのだ。ゆくゆくは……、天下の差配は、おぬしに任せたい」
十兵衛は驚きの声をあげる。
太若丸も、扱っていた茶器を、思わず落としそうになった。
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