本能寺燃ゆ

hiro75

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第四章「偏愛の城」

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「引き続き、丹波攻めの仕度をしておるところです」

「鬼退治には、しばし時を要するか?」

「申し訳ございませぬ」

「〝犬〟と〝猿〟、〝雉〟をお供に付けようか?」

「滅相もございませぬ。拙者自ら、丹波を攻略してみせます」

 殿は、うむと頷いた。

「まあ、丹波はしばし待て。赤鬼からも詫び状を送ってきておる」

「お許しになるので?」

 殿は、にこりと笑う。

「大坂が煩くてな」

 大坂本願寺が、再び挙兵したという。

 顕如けんにょの裏切りは、これで何度目か?

 顕如とて、馬鹿ではあるまい。

 三好氏、六角氏、浅井氏、朝倉氏を滅ぼし、比叡山を焼き、長島・越前の一向一揆を平定、長篠・志多羅では武田を駆逐し、帝から右大将の官位を得たいま、殿を相手とする本願寺として、身の振り方も分かっていよう。

 それでもなお、動くとなれば………………

「本願寺の本心で?」

「おぬしは、どう見る?」

「公方様が、手を引いておられるのでは?」

「であろうな。毛利が、『貧乏公方』を抱え込んだそうだ」

『貧乏公方』こと征夷大将軍足利義昭あしかがよしあきは、信長によって京を追放されてから方々を流浪していたが、ようやく鞆に落ち着いたらしい。

 鞆は、毛利氏の所領備後国、瀬戸内の潮待ちの湊 ―― 重要な軍事拠点でもある。

 室町幕府開闢の足利尊氏あしかがたかうじが、後醍醐ごだいご天皇との軋轢によって京から九州へ逃れ、再び京にあがる途中で光厳こうごん上皇から院宣を受け、この鞆に西国武士が続々と集まってきた。

 いわば、尊氏の復活、そして足利氏興隆の契機となった場所である。

 その場所を選んだということは、義昭自身がいまだ再興を諦めていないということだろう。

「流石に、〝蛇〟だな」

 と、殿は笑われていた。

「しかし、公方様を抱え込んだということであれば、毛利は………………」

 織田と毛利は、同盟関係にある。

 先に、義昭が毛利を頼りたいと願ったときは、織田との関係から断ったようだが、此度はこれを受け入れた。

 つまり、毛利は織田を敵に回した………………ということだ。

「『貧乏公方』が大坂を焚きつけ、それを毛利が助力するとなると、なかなか面倒じゃ。丹波攻めどころではあるまい。一旦は〝赤鬼〟の所業を許し、大坂に兵力を集中するほうが良い」

「左様で」
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