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第四章「偏愛の城」
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「ときに………………」
十兵衛に、もう一杯いかがかと伺ったときに、殿が口を開いた。
「丹波は如何に?」
「まことに申し訳ございませぬ」
十兵衛は頭を下げた。
昨年十月、越前を平定したおり、信長は十兵衛に丹波攻めを命じた。
長岡(細川)藤孝が丹波衆と折衝をしていたが上手くいかず、業を煮やした殿は、十兵衛を先鋒に差しむけた。
狙うは、荻野右衛門尉直正が立て籠もる黒井城。
直正は、丹波国氷上郡の国人赤井時家の次男であるが、荻野氏の猶子となった。
丹波には、赤井氏、荻野氏、波多野氏らの国人衆が割拠している。
赤井氏と荻野氏は、鎌倉代に土着した同族で、地頭や守護代に任じられた一族である。
直正は、黒井城主であった荻野秋清(直正からみれば義理の叔父)を殺害し、乗っ取り、自らを『悪右衛門』と称した。
「丹波には、鬼がおるというではないか、赤と青の……」
殿のいう〝赤鬼とは、この荻野直正であり、〝青鬼〟とは丹波国多紀郡国人の籾井教業である。
丹波衆は、いずれも歴戦の猛者である。
とくに、〝赤鬼〟と〝青鬼〟は恐れられている。
そのなかで、〝赤鬼〟は別格だ。
一筋縄ではいかぬと考えた十兵衛は、丹波衆を懐柔し、その大半を味方につけた。
昨年の霜月には、光秀と丹波勢で黒井城を囲み、長期の籠城戦へと持ち込んだ。
黒井城の規模と蓄えられている兵量を推察すれば、早々に落ちるだろうと十兵衛は見ていたようだ。
だが、味方に付いていた波多野秀治が、急に反旗を翻し、背後をついてきた。
流石にこれを防ぎきれずに、十兵衛は丹波より撤退を余儀なくされた。
この一月のことである。
十兵衛に、もう一杯いかがかと伺ったときに、殿が口を開いた。
「丹波は如何に?」
「まことに申し訳ございませぬ」
十兵衛は頭を下げた。
昨年十月、越前を平定したおり、信長は十兵衛に丹波攻めを命じた。
長岡(細川)藤孝が丹波衆と折衝をしていたが上手くいかず、業を煮やした殿は、十兵衛を先鋒に差しむけた。
狙うは、荻野右衛門尉直正が立て籠もる黒井城。
直正は、丹波国氷上郡の国人赤井時家の次男であるが、荻野氏の猶子となった。
丹波には、赤井氏、荻野氏、波多野氏らの国人衆が割拠している。
赤井氏と荻野氏は、鎌倉代に土着した同族で、地頭や守護代に任じられた一族である。
直正は、黒井城主であった荻野秋清(直正からみれば義理の叔父)を殺害し、乗っ取り、自らを『悪右衛門』と称した。
「丹波には、鬼がおるというではないか、赤と青の……」
殿のいう〝赤鬼とは、この荻野直正であり、〝青鬼〟とは丹波国多紀郡国人の籾井教業である。
丹波衆は、いずれも歴戦の猛者である。
とくに、〝赤鬼〟と〝青鬼〟は恐れられている。
そのなかで、〝赤鬼〟は別格だ。
一筋縄ではいかぬと考えた十兵衛は、丹波衆を懐柔し、その大半を味方につけた。
昨年の霜月には、光秀と丹波勢で黒井城を囲み、長期の籠城戦へと持ち込んだ。
黒井城の規模と蓄えられている兵量を推察すれば、早々に落ちるだろうと十兵衛は見ていたようだ。
だが、味方に付いていた波多野秀治が、急に反旗を翻し、背後をついてきた。
流石にこれを防ぎきれずに、十兵衛は丹波より撤退を余儀なくされた。
この一月のことである。
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