本能寺燃ゆ

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第三章「寵愛の帳」

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 九月二十六日、信長は岐阜に帰還。

 長島、越前と立て続けに一向勢を制圧し、残るは『百姓の持ちたる国』の加賀一向衆と、本拠地の大坂本願寺である。

 流石に、これは拙いと判断したのだろう。

 本願寺勢は、門跡の顕如が、三好康長・松井友閑を通して和睦を申し入れてきた。

 十月十日に上洛したのを見計らって、本願寺の長老たちが、顕如の詫び状と献上品として絵画三軸を携え、信長のもとにやってきた。

 殿は、本願寺との和睦は受け入れたが、顕如に対する赦免は、その後の対応を見て決めると、つれない返答であった。

 当然であろう。

 顕如には、これまで何度裏切られてきたことか。

「天気と坊主の説法ほど当てにならぬものはないからな」

 と、殿は笑っていた。

 まあ、確かに………………

 殿が京にいる間に、色々な公家や武将らが、献上品を持って挨拶にやってきた。

 その中で目を見張ったのが、奥羽の伊達左京大夫(輝宗てるむね:伊達政宗の父)からの献上品、がんぜき黒と白石鹿毛の二頭の馬、鶴取りの二羽の鷹である。

 殿は、特に鹿毛馬を「これは竜の子だ」と、大層気に入られた。

 その返礼として、虎皮五枚、豹皮五枚、緞子十枚、しじら二十反、さらに使者を饗応し、彼らにも黄金二枚を送るという厚遇ぶりであった。

 十月二十八日には、妙覚寺にて京・堺の茶人を集め、茶頭を千宋易せんのそうせき(利休)として茶会を開かれた。

 十一月四日、殿は清涼殿に参上され、権大納言を承った。

 その三日後には、右近衛大将にも任じられた。

 殿が先月の初めから京へ上がられたのは、朝廷より権大納言兼ねて右近衛大将の内示があったからである。

 殿は、その礼にと、帝に大量の砂金と反物を献上、公家衆にも所領を進展した。

 左近衛大将は公家が任官しているので、実質右近衛大将である信長が武官としての最高官位を得たことになる。

 これにより、殿が、現状征夷大将軍である足利義昭を官位で上回ったことになる。

 就任祝いだと、天下(畿内周辺)の武将や公家衆を集めて騒ごうかと思われたのだが、岐阜から急な報せが届いた。

 武田勢が立て籠もる岩村城への援軍にと、武田勝頼自ら甲斐より出馬したという。

 これに対抗し、信忠がすぐにも出撃するという。

「ならぬ! 勝手に出るなと伝えよ! すぐに岐阜に戻る!」

 と、殿は大急ぎで岐阜に戻られた。
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