本能寺燃ゆ

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第三章「寵愛の帳」

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 殿は、すぐさま京都所司代の村井吉兵衛貞勝を呼んだ。

 あわせて、長岡藤孝(細川藤孝)も呼び寄せた。

 貞勝には、公家に向けて徳政令を出し、丹羽長秀とともにその処理にあたるよう命じた。

 徳政令とは、すなわち借金の帳消しである。

 貴族の借金をなくし、巻き上げた土地を持ち主に戻せ! である。

 銭を貸したほうは堪ったものではないが、殿から言われれば背くわけにもいかない。

 公家衆は、もろ手を挙げて喜び、この礼かは分からないが、殿は東宮(誠仁さねひと親王)主催の蹴鞠の会に招待された。

「それは、おめでとうござりまする」

 と、藤孝は祝い事を述べた。

「そのようなことはどうでも良い」、殿は面倒臭そうに手を振った、「あんな、ただ毬を蹴るだけの遊び、何になる?」

 氏真や公家たちの前では、盛んに興味深そうにしていたが、あまり気に入らなかったようだ。

「まあ、お公家様らと繋がりを持つには、よい遊びかと?」

「そなたは、権大納言(三条西実枝)殿から和歌などを教わっておるのだろう? 蹴鞠も?」

「左様でございます」

 細川藤孝は、義昭のもとを離れ、信長の配下に入った後、山城国長岡の知行を許され、その際名字を長岡と改めた。

 三条西実枝とは幕臣の頃からの付き合いで、三条西家一子相伝の古今伝授(『古今和歌集』の解釈)を受けている。

 当時実枝の息子がまだ幼く、これを受けるのは早かったため、弟子の藤孝に一度渡し、息子が成長したら、藤孝から受けるという方法をとった。

 和歌の本家である公家から認められたほど、藤孝は才があった。

 そのお陰で、公家とのつながりも強く、有識故実にも詳しい。

「ならば蹴鞠とやら、儂に教えろ。公家どもの前で、恥を掻きたくはない」

「畏まりました。ならば、早速……」

 藤孝が段取りをするため立ち上がろうとすると、

「待て! 話はまだ終わっておらん。気が早い! 何をそんなに焦っておる?」

 藤孝は苦笑いしながら再び腰を下ろした。

 普段気が早いのは、殿の方なのだが………………家臣も、その癖がついているのだが。

「まだ何用か?」

「大事な話じゃ。そなたを呼んだのは大坂の件じゃ。そろそろ始末をつけようと思っておる。その仕度をせよ」

 大坂とは、大阪本願寺のことである。

 昨年、長島の一向一揆を鎮圧。

 越前の一向衆は、現在秀吉が制圧を進め、鎮圧間近と報せが届いている。

 残るは、一向門徒の総本山大坂本願寺である。

「それで、いつごろになりましょうや?」

「秋には……、丹波衆らを動員して、大坂攻めに備えよ!」

「畏まりました」
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