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第三章「寵愛の帳」
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信長主宰の茶会には、千宋易や津田宗及など名だたる茶人が招かれ、大いににぎわった。
その席で『蘭奢待』が披露され、宋易や宗及らに幾分か下賜され、また京都所司代である村井吉兵衛貞勝にも日頃の労をねぎらって、これを授けられた。
貞勝の喜びようときたら、まるで子供のようであった。
同じ日に、大坂本願寺が和睦を反故にして挙兵したとの報せを受けた。
これに兵を出して対応はしたが、殿は終始上機嫌であった。
五月五日の賀茂祭には、競馬の神事が行われ、信長は自慢の芦毛と鹿毛の二頭、また馬廻り組には黒と赤の神官装束を着させ、馬も美しく着飾らせて、出馬した。
公家、武家だけでなく、町衆など、多くの見物人が集まり、織田殿こそ天下人だと大いに噂した。
これで、都人も何れの御仁が天下人か分かったであろう、拙者らも鼻が高いと、連枝衆や家臣団、近習たちも喜んでいる。
もちろん、殿も機嫌が良い。
機嫌は良いが、どことなく心ここにあらずである。
寝所をともにしていても、殿から誘ってくることはない。
こちらから誘い、促すが、あれもそれほどでもなく、一回だけで満足して寝てしまう。
まあ、こちらにしてみれば楽なのでいいのだが………………ときどき、殿の関心がなくなったのかと不安になってしまう。
身体の調子でも悪いかと思って、尋ねたこともある。
殿は、何もないと首を振る。
が、しばらくして、
「退屈じゃな」
と、珍しくため息を吐いた。
お好みなるようなお相手ができず、申し訳ございませんと頭を下げると、いやいやと慌てて手を振った。
「太若丸が悪いのではない。ここ最近、何事もなく退屈じゃなと思うてな」
殿が退屈なのは、天下が平らに治まって良きことと思われます。
「天下ね……、天下泰平とは、これほど退屈なことか?」
天下泰平とは、それほど退屈な事かと存じます。
「うむ……」と、殿はまたため息を吐いた、「どこぞの誰かが、攻め込んでこないものかのう………………」
敵が攻め込んできて喜ぶ人もいないと思うが………………
「武田の子猿とか、動かぬか?」
岩村では睨み合ったままだが………………、
「そうじゃ、徳川殿から助力の願い出があったな」
五月に入って、武田が遠江に攻め込んできたと三河より報せがあった、助力を願いたいと。
天下の処理で忙しく、すぐに対応はできなかった。
直接織田の領内に攻め入ることでもなかったので、すっかりと忘れていた。
「そうじゃ、武田じゃ!」
その瞬間、殿は口の端を、それが裂けるのではないかというほど上げて、笑った。
目は爛々と輝き、頬も血が沸いたのか、薄紅色に染まる。
見ると、裾の間からあれが覗いている。
猛々しく、青筋を立て、まるで天を目指すかのように立ち上がっている。
いきなり抱き寄せられ、驚く間もなく挿入され、激しく動かされる。
破れてしまいそうだ。
「すぐに陣触れを鳴らせ! 出陣の準備じゃ!」
太若丸を突き上げながら、嬉々として命令を下す。
障子の向こうで、宿直たちが慌ただしい。
「太若丸、喜べ! 戦じゃ、戦! 武田の子猿を、叩きのめしてやる!」
陣触れ太鼓が鳴るなか、殿は激しく腰を突き上げ、勢いよく果てる。
久しぶりの激しさに、太若丸も果ててしまった。
やはり殿は、戦が好きなのだ………………
その席で『蘭奢待』が披露され、宋易や宗及らに幾分か下賜され、また京都所司代である村井吉兵衛貞勝にも日頃の労をねぎらって、これを授けられた。
貞勝の喜びようときたら、まるで子供のようであった。
同じ日に、大坂本願寺が和睦を反故にして挙兵したとの報せを受けた。
これに兵を出して対応はしたが、殿は終始上機嫌であった。
五月五日の賀茂祭には、競馬の神事が行われ、信長は自慢の芦毛と鹿毛の二頭、また馬廻り組には黒と赤の神官装束を着させ、馬も美しく着飾らせて、出馬した。
公家、武家だけでなく、町衆など、多くの見物人が集まり、織田殿こそ天下人だと大いに噂した。
これで、都人も何れの御仁が天下人か分かったであろう、拙者らも鼻が高いと、連枝衆や家臣団、近習たちも喜んでいる。
もちろん、殿も機嫌が良い。
機嫌は良いが、どことなく心ここにあらずである。
寝所をともにしていても、殿から誘ってくることはない。
こちらから誘い、促すが、あれもそれほどでもなく、一回だけで満足して寝てしまう。
まあ、こちらにしてみれば楽なのでいいのだが………………ときどき、殿の関心がなくなったのかと不安になってしまう。
身体の調子でも悪いかと思って、尋ねたこともある。
殿は、何もないと首を振る。
が、しばらくして、
「退屈じゃな」
と、珍しくため息を吐いた。
お好みなるようなお相手ができず、申し訳ございませんと頭を下げると、いやいやと慌てて手を振った。
「太若丸が悪いのではない。ここ最近、何事もなく退屈じゃなと思うてな」
殿が退屈なのは、天下が平らに治まって良きことと思われます。
「天下ね……、天下泰平とは、これほど退屈なことか?」
天下泰平とは、それほど退屈な事かと存じます。
「うむ……」と、殿はまたため息を吐いた、「どこぞの誰かが、攻め込んでこないものかのう………………」
敵が攻め込んできて喜ぶ人もいないと思うが………………
「武田の子猿とか、動かぬか?」
岩村では睨み合ったままだが………………、
「そうじゃ、徳川殿から助力の願い出があったな」
五月に入って、武田が遠江に攻め込んできたと三河より報せがあった、助力を願いたいと。
天下の処理で忙しく、すぐに対応はできなかった。
直接織田の領内に攻め入ることでもなかったので、すっかりと忘れていた。
「そうじゃ、武田じゃ!」
その瞬間、殿は口の端を、それが裂けるのではないかというほど上げて、笑った。
目は爛々と輝き、頬も血が沸いたのか、薄紅色に染まる。
見ると、裾の間からあれが覗いている。
猛々しく、青筋を立て、まるで天を目指すかのように立ち上がっている。
いきなり抱き寄せられ、驚く間もなく挿入され、激しく動かされる。
破れてしまいそうだ。
「すぐに陣触れを鳴らせ! 出陣の準備じゃ!」
太若丸を突き上げながら、嬉々として命令を下す。
障子の向こうで、宿直たちが慌ただしい。
「太若丸、喜べ! 戦じゃ、戦! 武田の子猿を、叩きのめしてやる!」
陣触れ太鼓が鳴るなか、殿は激しく腰を突き上げ、勢いよく果てる。
久しぶりの激しさに、太若丸も果ててしまった。
やはり殿は、戦が好きなのだ………………
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