本能寺燃ゆ

hiro75

文字の大きさ
上 下
241 / 498
第三章「寵愛の帳」

85

しおりを挟む
 だが、この世はつくづく戦に溢れている。

 一月の半ばには、越前で一向一揆が起き、守護代の桂田長俊かつらだながとし(前波吉継から改名)が自害に追い込まれたと報せが入り、羽柴秀吉、武藤舜秀むとうきよひで、丹羽長秀、不破光治・直光親子、丸毛長照・兼利親子を差し向けた。

 その終わりには、甲斐の武田が美濃の岩村に侵攻をはじめたとの一報が入った。

 岩村十八城といわれる、十八の城を次々に落とし、いまは明知城を囲んでいるという。

 諏訪四郎自らの出馬である。

 ならばと、信長も嫡男信忠のぶただ(この正月に信重より改名)を率いて出陣。

 高野まで進んだが、すでに明知城は陥落。

 なすすべもなく、帰還することとなった。

 久秀の見立て通り、なかなか侮れぬ若者である。

 高野の城番に河尻与四郎秀隆かわじりよしろうひでたかを、小里に池田勝三郎恒興いけだかつさぶろうつねおきを置き、しばし武田と睨み合いである。

 三月、殿は言葉通り、京へと上られた。

 帝や公家への挨拶や都の状況の視察もあるが、此度の目的は『蘭奢待』である。

 殿は、塙九郎左衛門直政ばんくろうさえもんなおまさ陽舜房順慶ようしゅんぼうじゅんけい筒井順慶つついじゅんけい)の両名を東大寺に使わした。

 東大寺からの返答は、『勅命であれば』というものであった。

 もとより、東大寺は帝の寺であり、表向き『蘭奢待』を収める倉を勝手に開封するわけにはいかない。

 信長に対する反発もあったらしい。

 天下人 ―― 将軍でもない者が、何を言うかである。

 だが、内裏を修復するなど、朝廷に対する貢献は大きい。

 ならば、帝の命令であれば………………という、至極真っ当な返答である。

 すぐさま殿は、ときの帝(正親町天皇)に願い出て、日野輝資ひのてるすけ飛鳥井雅綱あすかいまさつなから綸旨を受け取り、多聞山城へと入った。

 信長は奉行として、直政、菅屋長頼すがやながより、佐久間信盛、柴田勝家、丹羽長秀、蜂屋頼隆、荒木村重、武井夕庵、松井友閑まついゆうかん織田信澄おだのぶずみを東大寺に派遣。

 倉より出された『蘭奢待』は、三月二十八日辰の刻(午前八時頃)、多聞山城お成りの間に運び込まれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大航海時代 日本語版

藤瀬 慶久
歴史・時代
日本にも大航海時代があった――― 関ケ原合戦に勝利した徳川家康は、香木『伽羅』を求めて朱印船と呼ばれる交易船を東南アジア各地に派遣した それはあたかも、香辛料を求めてアジア航路を開拓したヨーロッパ諸国の後を追うが如くであった ―――鎖国前夜の1631年 坂本龍馬に先駆けること200年以上前 東の果てから世界の海へと漕ぎ出した、角屋七郎兵衛栄吉の人生を描く海洋冒険ロマン 『小説家になろう』で掲載中の拙稿「近江の轍」のサイドストーリーシリーズです ※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載します

【完結】電を逐う如し(いなづまをおうごとし)――磯野丹波守員昌伝

糸冬
歴史・時代
浅井賢政(のちの長政)の初陣となった野良田の合戦で先陣をつとめた磯野員昌。 その後の働きで浅井家きっての猛将としての地位を確固としていく員昌であるが、浅井家が一度は手を携えた織田信長と手切れとなり、前途には様々な困難が立ちはだかることとなる……。 姉川の合戦において、織田軍十三段構えの陣のうち実に十一段までを突破する「十一段崩し」で勇名を馳せた武将の一代記。

1333

干支ピリカ
歴史・時代
 鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。 (現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)  鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。  主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。  ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

処理中です...