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第三章「寵愛の帳」
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だが、この世はつくづく戦に溢れている。
一月の半ばには、越前で一向一揆が起き、守護代の桂田長俊(前波吉継から改名)が自害に追い込まれたと報せが入り、羽柴秀吉、武藤舜秀、丹羽長秀、不破光治・直光親子、丸毛長照・兼利親子を差し向けた。
その終わりには、甲斐の武田が美濃の岩村に侵攻をはじめたとの一報が入った。
岩村十八城といわれる、十八の城を次々に落とし、いまは明知城を囲んでいるという。
諏訪四郎自らの出馬である。
ならばと、信長も嫡男信忠(この正月に信重より改名)を率いて出陣。
高野まで進んだが、すでに明知城は陥落。
なすすべもなく、帰還することとなった。
久秀の見立て通り、なかなか侮れぬ若者である。
高野の城番に河尻与四郎秀隆を、小里に池田勝三郎恒興を置き、しばし武田と睨み合いである。
三月、殿は言葉通り、京へと上られた。
帝や公家への挨拶や都の状況の視察もあるが、此度の目的は『蘭奢待』である。
殿は、塙九郎左衛門直政、陽舜房順慶(筒井順慶)の両名を東大寺に使わした。
東大寺からの返答は、『勅命であれば』というものであった。
もとより、東大寺は帝の寺であり、表向き『蘭奢待』を収める倉を勝手に開封するわけにはいかない。
信長に対する反発もあったらしい。
天下人 ―― 将軍でもない者が、何を言うかである。
だが、内裏を修復するなど、朝廷に対する貢献は大きい。
ならば、帝の命令であれば………………という、至極真っ当な返答である。
すぐさま殿は、ときの帝(正親町天皇)に願い出て、日野輝資、飛鳥井雅綱から綸旨を受け取り、多聞山城へと入った。
信長は奉行として、直政、菅屋長頼、佐久間信盛、柴田勝家、丹羽長秀、蜂屋頼隆、荒木村重、武井夕庵、松井友閑、織田信澄を東大寺に派遣。
倉より出された『蘭奢待』は、三月二十八日辰の刻(午前八時頃)、多聞山城お成りの間に運び込まれた。
一月の半ばには、越前で一向一揆が起き、守護代の桂田長俊(前波吉継から改名)が自害に追い込まれたと報せが入り、羽柴秀吉、武藤舜秀、丹羽長秀、不破光治・直光親子、丸毛長照・兼利親子を差し向けた。
その終わりには、甲斐の武田が美濃の岩村に侵攻をはじめたとの一報が入った。
岩村十八城といわれる、十八の城を次々に落とし、いまは明知城を囲んでいるという。
諏訪四郎自らの出馬である。
ならばと、信長も嫡男信忠(この正月に信重より改名)を率いて出陣。
高野まで進んだが、すでに明知城は陥落。
なすすべもなく、帰還することとなった。
久秀の見立て通り、なかなか侮れぬ若者である。
高野の城番に河尻与四郎秀隆を、小里に池田勝三郎恒興を置き、しばし武田と睨み合いである。
三月、殿は言葉通り、京へと上られた。
帝や公家への挨拶や都の状況の視察もあるが、此度の目的は『蘭奢待』である。
殿は、塙九郎左衛門直政、陽舜房順慶(筒井順慶)の両名を東大寺に使わした。
東大寺からの返答は、『勅命であれば』というものであった。
もとより、東大寺は帝の寺であり、表向き『蘭奢待』を収める倉を勝手に開封するわけにはいかない。
信長に対する反発もあったらしい。
天下人 ―― 将軍でもない者が、何を言うかである。
だが、内裏を修復するなど、朝廷に対する貢献は大きい。
ならば、帝の命令であれば………………という、至極真っ当な返答である。
すぐさま殿は、ときの帝(正親町天皇)に願い出て、日野輝資、飛鳥井雅綱から綸旨を受け取り、多聞山城へと入った。
信長は奉行として、直政、菅屋長頼、佐久間信盛、柴田勝家、丹羽長秀、蜂屋頼隆、荒木村重、武井夕庵、松井友閑、織田信澄を東大寺に派遣。
倉より出された『蘭奢待』は、三月二十八日辰の刻(午前八時頃)、多聞山城お成りの間に運び込まれた。
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