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第三章「寵愛の帳」
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そのあとは、天下の情勢などの話になり、義昭が今度はどこを頼ろうかという話になった。
「織田殿はお優し過ぎまするな。いくら将軍とはいえ、情けをかけて何になりましょう。某なら、ばっさりとやりまするぞ」
「いやいや〝蛇〟は、じわりじわりと攻め殺すのが面白いのだ」
「これはこれは、恐ろしい」と、久秀は笑う、「しかし、もはや誰があれの相手をしましょうや?」
頼りの朝倉も、浅井もいまやなく、織田と同盟関係の毛利氏からは煙たがられているらしい。
「まあ、頼るとなれば……、甲斐の武田か……、越後の上杉……、おお、そういえば、武田信濃守が亡くなったのをご承知か?」
「ふむ? やはりか……」
甲斐方面にはなった間者から、武田晴信が亡くなっているのではないかという報せは届いていた。
同盟徳川を苦しめ、織田も手を焼いていた武田の西進がぴたりと止まったのも、晴信が亡くなったからのようだ。
内外に動揺が走るのを恐れ、これを隠していると………………
「どこで、それを?」
「堺では、もっぱら……」
久秀は、茶人でもある。
堺の今井宗久や千宋易らと親しく、色々な報せが入ってくるらしい。
流石は、各地にそれぞれの情報元を持つ商人の都である。
「して、次の当主は?」
「四男 ―― 諏訪四郎(武田勝頼)!」
「あれか?」、殿は鼻で笑う、「甲斐の大猿が死んで、子猿では持つまいて」
晴信の後継は、太郎義信のはずであった。
初陣で三百人近くを討ち取るなど、武将として有能で覚えも目出度い。
だが、義信の家臣たちが晴信暗殺を企てたというかどで処断され、義信も監督不行き届きと廃嫡、そのまま亡くなった。
とは表向きで、当時晴信が今川領を攻略のために、今川の娘を嫁に持つ義信たち今川派が邪魔であったというが本当らしい。
次郎信親は幼少より目が見えないため跡継ぎにはなれず、三郎信之は夭折、結局側室の子であった四郎が継いだようだ。
「あれには、娘を嫁がせたが………………」
武田との同盟のため、信長の嫡男信忠と晴信の娘松姫の婚姻の前に、この勝頼に信長の娘を嫁がせている ―― 正確には、信長の養女(実父は、遠山直廉)である。
勝頼との間に太郎信勝を生んだ後、晴信の西侵の前に亡くなっている。
「あまり、良き話は聞かぬが」
「いやいや、あれでなかなか」
「ほう、では某の倅と比べて如何様か?」
「勘九郎殿には及びませぬが………………」と、断ったうえで、「若輩ゆえ、まだまだ信濃守ほどの力量はありますまい……、が、その教えをよくよく守り、ときに勇猛果敢、意外に侮れぬかと………………」
「ははは……、三悪をなした松永殿の言葉とは思われませぬな」
「いやいや、お互いさまで」
と、久秀も高笑い。
かくして正月は、久しぶりに穏やかな時が過ぎるかと思われた。
「織田殿はお優し過ぎまするな。いくら将軍とはいえ、情けをかけて何になりましょう。某なら、ばっさりとやりまするぞ」
「いやいや〝蛇〟は、じわりじわりと攻め殺すのが面白いのだ」
「これはこれは、恐ろしい」と、久秀は笑う、「しかし、もはや誰があれの相手をしましょうや?」
頼りの朝倉も、浅井もいまやなく、織田と同盟関係の毛利氏からは煙たがられているらしい。
「まあ、頼るとなれば……、甲斐の武田か……、越後の上杉……、おお、そういえば、武田信濃守が亡くなったのをご承知か?」
「ふむ? やはりか……」
甲斐方面にはなった間者から、武田晴信が亡くなっているのではないかという報せは届いていた。
同盟徳川を苦しめ、織田も手を焼いていた武田の西進がぴたりと止まったのも、晴信が亡くなったからのようだ。
内外に動揺が走るのを恐れ、これを隠していると………………
「どこで、それを?」
「堺では、もっぱら……」
久秀は、茶人でもある。
堺の今井宗久や千宋易らと親しく、色々な報せが入ってくるらしい。
流石は、各地にそれぞれの情報元を持つ商人の都である。
「して、次の当主は?」
「四男 ―― 諏訪四郎(武田勝頼)!」
「あれか?」、殿は鼻で笑う、「甲斐の大猿が死んで、子猿では持つまいて」
晴信の後継は、太郎義信のはずであった。
初陣で三百人近くを討ち取るなど、武将として有能で覚えも目出度い。
だが、義信の家臣たちが晴信暗殺を企てたというかどで処断され、義信も監督不行き届きと廃嫡、そのまま亡くなった。
とは表向きで、当時晴信が今川領を攻略のために、今川の娘を嫁に持つ義信たち今川派が邪魔であったというが本当らしい。
次郎信親は幼少より目が見えないため跡継ぎにはなれず、三郎信之は夭折、結局側室の子であった四郎が継いだようだ。
「あれには、娘を嫁がせたが………………」
武田との同盟のため、信長の嫡男信忠と晴信の娘松姫の婚姻の前に、この勝頼に信長の娘を嫁がせている ―― 正確には、信長の養女(実父は、遠山直廉)である。
勝頼との間に太郎信勝を生んだ後、晴信の西侵の前に亡くなっている。
「あまり、良き話は聞かぬが」
「いやいや、あれでなかなか」
「ほう、では某の倅と比べて如何様か?」
「勘九郎殿には及びませぬが………………」と、断ったうえで、「若輩ゆえ、まだまだ信濃守ほどの力量はありますまい……、が、その教えをよくよく守り、ときに勇猛果敢、意外に侮れぬかと………………」
「ははは……、三悪をなした松永殿の言葉とは思われませぬな」
「いやいや、お互いさまで」
と、久秀も高笑い。
かくして正月は、久しぶりに穏やかな時が過ぎるかと思われた。
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