本能寺燃ゆ

hiro75

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第三章「寵愛の帳」

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 殿の機嫌が良い時に、物の怪のことをそれとなく話してみた。

「なんだ、あいつらはそんなことを恐れているのか?」

 と、笑っていた。

「物の怪など、この儂が叩き切ってやるわ」

 流石殿でございます………………と、お世辞を言った後、されど馬廻りの方の士気にかかわりますので………………と、例の話を伝えた。

 この手法は、十兵衛から聞いたと付け加えて。

「ほう、十兵衛はそういうことまで知っておるのか、流石だな」

 殿は酷く感心していた。

 これでまた、十兵衛の株があがっただろうか?

「まあ、よいわ。朝倉らの首を肴に、濁酒を飲むのも、また一興!」

 早速殿は、京に晒されていた朝倉義景、浅井久政・長政親子の首を取り寄せ、腐敗していた肉を削ぎ落し、漆や金泥で彩らせた。

 明けて天正二(一五七四)年元日、岐阜に畿内周辺の大名・武将らを集め、祝宴を開いた。

 そのあと、馬廻り組だけを集め、例の薄濃はくだみにした三人の髑髏を御膳に乗せ、その前で酒宴を開いた。

 上も下もなく、大酒を飲み、謡に興じ、女も侍らせ、太若丸も舞いを披露するなどして、大いに騒いだ。

 そのお陰か、物の怪への恐怖もなくなり、いつもの精鋭な馬廻り組へと戻ったと、又左衛門も喜んでいた。

「こういった芝居じみたことも、下々を束ねるには必要じゃな」

 と、殿も終始機嫌が良かった。
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