本能寺燃ゆ

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第三章「寵愛の帳」

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 数日後、秀吉からお礼にと、幾ばくかの銭が届いた。

 太若丸だけでなく、信盛や勝家をはじめ、小姓たちにも配ったようだ。

 相変わらず芸が細かい。

『〝猿〟のくせに、銭など配りやがって』

『まったく、〝猿〟が人真似などお笑いだ』

 と、小姓たちは陰で笑っている。

 が、その顔は嬉しそうだ。

『それに比べて、あの〝きんかん頭〟は………………』

『あの〝きんかん頭〟は駄目だ。頭が良いかもしれんが、気遣いができん』

『殿は、なぜ、あの〝きんかん頭〟を重宝するのか分からん』

『まあ、使うだけ使って、そのうちお役御免だよ』

 と、何れかの御仁の噂話で笑っている。

 はて、〝きんかん頭〟とは誰であろう?

 その小姓たちと目が合うと、彼らは慌てて目を逸らした。

 だが、陰でこそこそ話す。

『いかん、いかん、〝きんかん頭〟に告げ口されるぞ』

 ああ、十兵衛のことかと思い当った ―― 確かに、十兵衛は人より少々頭の鉢が大きいが ―― あの頭の中にたくさんの知識が詰まっているのだ。

『いやいや、殿にも告げ口しようぞ。あやつも、殿のお気に入りだからのう』

『どうやったら、殿のお気に入りになれるんだ?』

『ケツが良いからであろう』

『おぬしも、殿に尻を差し出せば気に入られるぞ』

『左様か? そんなことで殿に気に入られるのか? ならば、いくらでも出すぞ。ほれほれ』

 ひとりの小姓が、みなの前で尻を突き出し、ふりふりと左右に振る。

 どっと笑いが起きた。

 ―― 阿保らしい。

 そんなことで気に入られるなら苦労はしない。

 太若丸自身、殿に気に入られているとは思わない。

 ただ、成り行きでお世話をしているだけ………………極力殿の怒りをかわぬようにしているだけ。

 まったく、詰まらない噂話などしている暇があれば、殿が気に入るようなことをすればいい。

 大体、殿はそういう噂話を酷く嫌う。

 言いたいことがあれば、面と向かって言え!

 ………………である。

 まあ、言ったら言ったで、どのようなお叱りを受けるか分からないが。
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