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第三章「寵愛の帳」
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報せは、都の村井吉兵衛貞勝からである。
『公方様、甚だご立腹の御様子……』
十五代将軍義昭が、信長の仕打ちを非難しているという。
「公方様というよりも、奉公衆がというべきでしょうが………………」
宿老林佐渡守秀貞が、書状に目を落とし、白い顎髭を揺らしながら言った。
貞勝からの書状が届き、すぐさま連枝衆や家臣団が集められた。
なぜか、太若丸もその席に呼ばれ、殿の後ろに控えた。
大広間には、虎御前山で浅井・朝倉軍と睨み合う藤吉郎を除いて、主だった武将が集まっていた。
十兵衛もいた。
太若丸と顔を合わせると、にこりとほほ笑んだ。
相変わらず人好きする笑顔である ―― この笑顔に、幾人の人が魅了されたか………………
太若丸は、胸が熱くなりながらも、殿に遠慮して軽く頭を下げるだけにした。
「村井殿の報せによると……」、秀貞は目をしょぼつかせながら口を開く、「件の殿の書状が、幕内で騒ぎになっておるとか」
信長は、『思い立ったら吉日』で、何事も独断で決めて、周囲に相談なくすぐに動く、だから家臣や小姓たちはいつも慌てふためく。
と、思われがちだが、それは戦場の話で、血が騒ぐのだろう、勢いよく飛び出していくので、小姓や馬回衆に慌てて止められることがあった。
だが、家政や対外的な事案、のちに大事に至るようなことは、家臣たちに意見を求める。
ひとりでは決められない………………訳ではないらしい。
己の判断力には自信があるようだ。
だが、信長ひとりの視野にも限界がある。
後ろに目はついていない。
全方位を見るには、他の者の目も必要だ ―― そこに、隠れた良き選択肢が眠っているかもしれない。
可能性の幅を広げ、最も良い選択をするためにも、家臣たちの良い意見も悪い意見も聞いているらしい。
豪胆に見えて、思ったよりも慎重なのだと、これもまた殿の面白いところだと太若丸は思っている。
『公方様、甚だご立腹の御様子……』
十五代将軍義昭が、信長の仕打ちを非難しているという。
「公方様というよりも、奉公衆がというべきでしょうが………………」
宿老林佐渡守秀貞が、書状に目を落とし、白い顎髭を揺らしながら言った。
貞勝からの書状が届き、すぐさま連枝衆や家臣団が集められた。
なぜか、太若丸もその席に呼ばれ、殿の後ろに控えた。
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相変わらず人好きする笑顔である ―― この笑顔に、幾人の人が魅了されたか………………
太若丸は、胸が熱くなりながらも、殿に遠慮して軽く頭を下げるだけにした。
「村井殿の報せによると……」、秀貞は目をしょぼつかせながら口を開く、「件の殿の書状が、幕内で騒ぎになっておるとか」
信長は、『思い立ったら吉日』で、何事も独断で決めて、周囲に相談なくすぐに動く、だから家臣や小姓たちはいつも慌てふためく。
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だが、家政や対外的な事案、のちに大事に至るようなことは、家臣たちに意見を求める。
ひとりでは決められない………………訳ではないらしい。
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だが、信長ひとりの視野にも限界がある。
後ろに目はついていない。
全方位を見るには、他の者の目も必要だ ―― そこに、隠れた良き選択肢が眠っているかもしれない。
可能性の幅を広げ、最も良い選択をするためにも、家臣たちの良い意見も悪い意見も聞いているらしい。
豪胆に見えて、思ったよりも慎重なのだと、これもまた殿の面白いところだと太若丸は思っている。
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