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第三章「寵愛の帳」
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その夜、信長の寝所に呼ばれた。
小姓として最初の仕事 ―― 夜伽の相手をせよという。
藤吉郎は、「大丈夫でござるか?」「したことはありますや?」と、またまた心配している。
これでも御山の稚児です、心配ござりませんと、太若丸は身支度を整え、信長の寝床に向かった。
寝所の前には、宿直の小姓が二人いた。
二人とも、太若丸をぎっと睨みつける。
頭を下げる。
小姓の一人が中に声をかけ、そっと障子を開ける。
むっと甘ったるい香りが鼻腔をつく。
なんの香だろうか?
少々頭が痛くなりそうだ………………
躊躇していると、小姓が「お早く」と冷たく言い放つ。
恐れをなしていると思われるのも癪なので、太若丸は、にこりと笑みを返して、足を踏み入れた。
信長がいた。
襦袢姿で脇息にもたれ、つまらなそうに濁酒を飲んでいる。
太若丸が入ってくると、近くと手招きをし、杯を突き出した。
注げというのだろう。
太若丸は、傍に座り、酒を注いだ。
信長は、それをぐいっと一気にあけた。
部屋の中には、燈明がこれでもかと灯され、まるで昼間のように明るい。
いや、燈明だけの明かりではないようだ。
よくみると、壁や障子、調度品がきらきら、ぎらぎらと輝いている。
どうやら、金や銀の細工を施しているようだ。
そこに、甘ったるい匂いである。
まるで極楽のようで、目が回りそうだ。
よくよくこの中で、淡々と酒が飲めるものだと、太若丸は感心する。
気が付けば、すでに無言で五、六杯は注いでいる。
酒が好きなのか?
それとも会話をするつもりもないのか?
なら、なぜ呼んだのか?
このまま黙って相手をするのもいいのだが、それでは御山の稚児が廃ると、太若丸は口を開いた。
近頃の季節の話から、ここの印象、ここまでの道のり、都のこと………………当たり障りのない話である。
信長は、話を聞いているのか、いないのか………………ずっと酒を飲んでいる。
ちらちらと視線をよこす。
下半身を見ると、前が大きくなっている。
太若丸に興味はあるようだ。
ただなかなか手を出してこない。
太若丸を呼んだということはそのつもりで、その身支度をしてきたのだが、これは聊か肩透かしだ。
まあ、こちらも敢えて身を委ねるつもりもないので、そのまま他愛無い話を続けた。
小姓として最初の仕事 ―― 夜伽の相手をせよという。
藤吉郎は、「大丈夫でござるか?」「したことはありますや?」と、またまた心配している。
これでも御山の稚児です、心配ござりませんと、太若丸は身支度を整え、信長の寝床に向かった。
寝所の前には、宿直の小姓が二人いた。
二人とも、太若丸をぎっと睨みつける。
頭を下げる。
小姓の一人が中に声をかけ、そっと障子を開ける。
むっと甘ったるい香りが鼻腔をつく。
なんの香だろうか?
少々頭が痛くなりそうだ………………
躊躇していると、小姓が「お早く」と冷たく言い放つ。
恐れをなしていると思われるのも癪なので、太若丸は、にこりと笑みを返して、足を踏み入れた。
信長がいた。
襦袢姿で脇息にもたれ、つまらなそうに濁酒を飲んでいる。
太若丸が入ってくると、近くと手招きをし、杯を突き出した。
注げというのだろう。
太若丸は、傍に座り、酒を注いだ。
信長は、それをぐいっと一気にあけた。
部屋の中には、燈明がこれでもかと灯され、まるで昼間のように明るい。
いや、燈明だけの明かりではないようだ。
よくみると、壁や障子、調度品がきらきら、ぎらぎらと輝いている。
どうやら、金や銀の細工を施しているようだ。
そこに、甘ったるい匂いである。
まるで極楽のようで、目が回りそうだ。
よくよくこの中で、淡々と酒が飲めるものだと、太若丸は感心する。
気が付けば、すでに無言で五、六杯は注いでいる。
酒が好きなのか?
それとも会話をするつもりもないのか?
なら、なぜ呼んだのか?
このまま黙って相手をするのもいいのだが、それでは御山の稚児が廃ると、太若丸は口を開いた。
近頃の季節の話から、ここの印象、ここまでの道のり、都のこと………………当たり障りのない話である。
信長は、話を聞いているのか、いないのか………………ずっと酒を飲んでいる。
ちらちらと視線をよこす。
下半身を見ると、前が大きくなっている。
太若丸に興味はあるようだ。
ただなかなか手を出してこない。
太若丸を呼んだということはそのつもりで、その身支度をしてきたのだが、これは聊か肩透かしだ。
まあ、こちらも敢えて身を委ねるつもりもないので、そのまま他愛無い話を続けた。
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