本能寺燃ゆ

hiro75

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第三章「寵愛の帳」

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 翌日、太若丸たちが上がる前に、すでに舞台には人だかりができていた。

 人を掻き分けて舞台に上がらなければならないほどだ。

 踊りはじめると、人がどんどん増えていく。

 わざわざ他所の現場から見にくる者もあるようだ。

 中には、女たちもいる ―― 飯場や置屋で働いている女たちだ。

「いや~、可愛ええ子やないの」

「うち、惚れてまうわ」

 視線を送ると、

「いやん、こっち見たわ」

 黄色い声をあげ、手を振る。

「稚児に手を出すなんて、おぬしら好きもんだな」

 と、隣にいた男が呆れている。

「あほ、化粧映えする子は、化粧をおとしたら男前なんよ」

「そういうものか?」

 舞いながら、男女の声を聴き、なるほど、やはり女は鋭いと思った。

 太若丸たちの舞いは評判が良く、日に日に人が多くなっていく。

 他の現場からも見に来るので、太若丸の舞台を見に行くのが禁止されるほどだ。

 だが、男衆から不平・不満が出て、仕事に支障が出だしたので、それならこっちの舞台にも来てくれと、太若丸たちが他の舞台を順繰りに回ることになった。

 そのせいで、他の稚児や若衆たちから厳しく当たられる。

 太若丸には何もしてこない。

 が、太若丸以外の子に目を付けているようだ。

 太若丸がいないところで、その子たちを苛めているようだ。

 特に、その中で一番年下の、身体の小さい子に酷いことをしているようだ。

 あるとき、いないので探していると、物陰で泣いていた。

 どうしたのか問うても、答えない。

 ただ首を振るだけ。

 だが、着物に隠れた腕や太ももが赤くなっているので、あいつらに小突かれたか、蹴られたかしたようだ。

 ある時には、舞台の用意をしなければならないのに、部屋の片隅でうろうろしている。

 何か探しているようだ。

 早く支度をしろと声をかけると、涙目だ。

 何があったのか?

 ―― ない………………

 と言う。

 何がないのか?

 ―― 道具がない………………

 道具?

 化粧道具か?

 彼は、いまにも泣きそうになりながら、こくりと頷いた。

 はずみで、涙が零れた。

 ははん、なるほど、隠されたな。

 やることが陰湿だ。

 一緒に探してやってもいいが、時も迫っていたので、道具を貸してやった。

 ついでに、化粧の仕方も教えてやった。

 もともと素地が可愛いので、丁寧にすれば化粧映えする子である。

 鏡で見せてやると、己の顔に酷く驚き、喜んでいた。

 それで気を許したのか、吾は、何処何処の何々ですと名乗ったが、他の稚児と馴れるつもりはなかったので、覚えるつもりもなかった。
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