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第三章「寵愛の帳」
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翌日、太若丸たちが上がる前に、すでに舞台には人だかりができていた。
人を掻き分けて舞台に上がらなければならないほどだ。
踊りはじめると、人がどんどん増えていく。
わざわざ他所の現場から見にくる者もあるようだ。
中には、女たちもいる ―― 飯場や置屋で働いている女たちだ。
「いや~、可愛ええ子やないの」
「うち、惚れてまうわ」
視線を送ると、
「いやん、こっち見たわ」
黄色い声をあげ、手を振る。
「稚児に手を出すなんて、おぬしら好きもんだな」
と、隣にいた男が呆れている。
「あほ、化粧映えする子は、化粧をおとしたら男前なんよ」
「そういうものか?」
舞いながら、男女の声を聴き、なるほど、やはり女は鋭いと思った。
太若丸たちの舞いは評判が良く、日に日に人が多くなっていく。
他の現場からも見に来るので、太若丸の舞台を見に行くのが禁止されるほどだ。
だが、男衆から不平・不満が出て、仕事に支障が出だしたので、それならこっちの舞台にも来てくれと、太若丸たちが他の舞台を順繰りに回ることになった。
そのせいで、他の稚児や若衆たちから厳しく当たられる。
太若丸には何もしてこない。
が、太若丸以外の子に目を付けているようだ。
太若丸がいないところで、その子たちを苛めているようだ。
特に、その中で一番年下の、身体の小さい子に酷いことをしているようだ。
あるとき、いないので探していると、物陰で泣いていた。
どうしたのか問うても、答えない。
ただ首を振るだけ。
だが、着物に隠れた腕や太ももが赤くなっているので、あいつらに小突かれたか、蹴られたかしたようだ。
ある時には、舞台の用意をしなければならないのに、部屋の片隅でうろうろしている。
何か探しているようだ。
早く支度をしろと声をかけると、涙目だ。
何があったのか?
―― ない………………
と言う。
何がないのか?
―― 道具がない………………
道具?
化粧道具か?
彼は、いまにも泣きそうになりながら、こくりと頷いた。
はずみで、涙が零れた。
ははん、なるほど、隠されたな。
やることが陰湿だ。
一緒に探してやってもいいが、時も迫っていたので、道具を貸してやった。
ついでに、化粧の仕方も教えてやった。
もともと素地が可愛いので、丁寧にすれば化粧映えする子である。
鏡で見せてやると、己の顔に酷く驚き、喜んでいた。
それで気を許したのか、吾は、何処何処の何々ですと名乗ったが、他の稚児と馴れるつもりはなかったので、覚えるつもりもなかった。
人を掻き分けて舞台に上がらなければならないほどだ。
踊りはじめると、人がどんどん増えていく。
わざわざ他所の現場から見にくる者もあるようだ。
中には、女たちもいる ―― 飯場や置屋で働いている女たちだ。
「いや~、可愛ええ子やないの」
「うち、惚れてまうわ」
視線を送ると、
「いやん、こっち見たわ」
黄色い声をあげ、手を振る。
「稚児に手を出すなんて、おぬしら好きもんだな」
と、隣にいた男が呆れている。
「あほ、化粧映えする子は、化粧をおとしたら男前なんよ」
「そういうものか?」
舞いながら、男女の声を聴き、なるほど、やはり女は鋭いと思った。
太若丸たちの舞いは評判が良く、日に日に人が多くなっていく。
他の現場からも見に来るので、太若丸の舞台を見に行くのが禁止されるほどだ。
だが、男衆から不平・不満が出て、仕事に支障が出だしたので、それならこっちの舞台にも来てくれと、太若丸たちが他の舞台を順繰りに回ることになった。
そのせいで、他の稚児や若衆たちから厳しく当たられる。
太若丸には何もしてこない。
が、太若丸以外の子に目を付けているようだ。
太若丸がいないところで、その子たちを苛めているようだ。
特に、その中で一番年下の、身体の小さい子に酷いことをしているようだ。
あるとき、いないので探していると、物陰で泣いていた。
どうしたのか問うても、答えない。
ただ首を振るだけ。
だが、着物に隠れた腕や太ももが赤くなっているので、あいつらに小突かれたか、蹴られたかしたようだ。
ある時には、舞台の用意をしなければならないのに、部屋の片隅でうろうろしている。
何か探しているようだ。
早く支度をしろと声をかけると、涙目だ。
何があったのか?
―― ない………………
と言う。
何がないのか?
―― 道具がない………………
道具?
化粧道具か?
彼は、いまにも泣きそうになりながら、こくりと頷いた。
はずみで、涙が零れた。
ははん、なるほど、隠されたな。
やることが陰湿だ。
一緒に探してやってもいいが、時も迫っていたので、道具を貸してやった。
ついでに、化粧の仕方も教えてやった。
もともと素地が可愛いので、丁寧にすれば化粧映えする子である。
鏡で見せてやると、己の顔に酷く驚き、喜んでいた。
それで気を許したのか、吾は、何処何処の何々ですと名乗ったが、他の稚児と馴れるつもりはなかったので、覚えるつもりもなかった。
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