本能寺燃ゆ

hiro75

文字の大きさ
上 下
185 / 498
第三章「寵愛の帳」

29

しおりを挟む
 翌日、太若丸たちが上がる前に、すでに舞台には人だかりができていた。

 人を掻き分けて舞台に上がらなければならないほどだ。

 踊りはじめると、人がどんどん増えていく。

 わざわざ他所の現場から見にくる者もあるようだ。

 中には、女たちもいる ―― 飯場や置屋で働いている女たちだ。

「いや~、可愛ええ子やないの」

「うち、惚れてまうわ」

 視線を送ると、

「いやん、こっち見たわ」

 黄色い声をあげ、手を振る。

「稚児に手を出すなんて、おぬしら好きもんだな」

 と、隣にいた男が呆れている。

「あほ、化粧映えする子は、化粧をおとしたら男前なんよ」

「そういうものか?」

 舞いながら、男女の声を聴き、なるほど、やはり女は鋭いと思った。

 太若丸たちの舞いは評判が良く、日に日に人が多くなっていく。

 他の現場からも見に来るので、太若丸の舞台を見に行くのが禁止されるほどだ。

 だが、男衆から不平・不満が出て、仕事に支障が出だしたので、それならこっちの舞台にも来てくれと、太若丸たちが他の舞台を順繰りに回ることになった。

 そのせいで、他の稚児や若衆たちから厳しく当たられる。

 太若丸には何もしてこない。

 が、太若丸以外の子に目を付けているようだ。

 太若丸がいないところで、その子たちを苛めているようだ。

 特に、その中で一番年下の、身体の小さい子に酷いことをしているようだ。

 あるとき、いないので探していると、物陰で泣いていた。

 どうしたのか問うても、答えない。

 ただ首を振るだけ。

 だが、着物に隠れた腕や太ももが赤くなっているので、あいつらに小突かれたか、蹴られたかしたようだ。

 ある時には、舞台の用意をしなければならないのに、部屋の片隅でうろうろしている。

 何か探しているようだ。

 早く支度をしろと声をかけると、涙目だ。

 何があったのか?

 ―― ない………………

 と言う。

 何がないのか?

 ―― 道具がない………………

 道具?

 化粧道具か?

 彼は、いまにも泣きそうになりながら、こくりと頷いた。

 はずみで、涙が零れた。

 ははん、なるほど、隠されたな。

 やることが陰湿だ。

 一緒に探してやってもいいが、時も迫っていたので、道具を貸してやった。

 ついでに、化粧の仕方も教えてやった。

 もともと素地が可愛いので、丁寧にすれば化粧映えする子である。

 鏡で見せてやると、己の顔に酷く驚き、喜んでいた。

 それで気を許したのか、吾は、何処何処の何々ですと名乗ったが、他の稚児と馴れるつもりはなかったので、覚えるつもりもなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

処理中です...