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第三章「寵愛の帳」
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その後、また別の話や戯言で盛り上がったのだが、ふいに左馬助が、
「ところで、太若丸殿、その……、玉子と何かござりましたか?」
と、訊いてきた。
何かと首を傾げると、
「その……、何事か契ったとか……、例えば、夫婦のような……」
太若丸は首を振る。
夫婦のような行為はしたが、夫婦になる約束などしていない………………まあ、玉子のほうは、幾分本気のようだが………………
「左様ですか……、いや、何やら妻からそのようなことを聞いたので……、それで京に行かすなど、情けもないなどと詰られまして……」
太若丸は、ないないと慌てて首を振る。
「そうですか? 拙者は、太若丸殿なら、玉子の婿にとは思いますが。まあ、あの跳ね上がり者を、太若丸殿が好いてくれればですが……」
「なんじゃ、太若丸殿と玉子殿は、そういった仲なのか?」
十兵衛も口を挟んできた。
ややこしいは話になりそうだ。
全くござらんと、否定する。
「いや、拙者も、太若丸殿と玉子殿なら、お似合いと思うぞ」
十兵衛の言葉に、他の者まで頷く始末。
「お互いついてるものが違うのだ。ちょうど良いではないか」
と、伝五は笑う ―― 飲み過ぎではないか?
「何なら、太若丸殿を十兵衛の養子にして、玉子殿と妻合わせても良いのではないか?」
内蔵助が言う。
「それは良い!」、伝五は膝を叩く、「それはまことに結構! 主と家臣が縁続きになれば、明智の家も安泰じゃ!」
庄兵衛も、次右衛門も、それは良いと頷く。
首を振るのは、太若丸だけ。
吾がなりたいのは、十兵衛の子ではない、十兵衛の妻なのだ。
「ならば、京に立つ前にでも仮祝言を……」
話がどんどん進んでいく。
さすがにそれは……と声を上げようとすると、
「いや、待て!」と、十兵衛が遮った、「太若丸殿と玉子殿の件はなしだ」
皆が首を傾げる。
太若丸は、ほっと安心だ。
「玉子殿は……、他の男と妻合わせる、おぬしの娘とは思えぬぐらい器量よしだ、気が強いところも侍の妻として上々、他の侍と縁を持つために使わせてもらうぞ。これも、武家の娘に生まれた性だと思ってな」
「別段、それは構わんが……、拙者としては、ただ娘が良縁に恵まれれば良いだけだ。まあ、妻が煩かろうが……」
「太若丸殿には、そのうち、拙者が良い嫁を妻合わせましょう。それよりも、まずは京でのお役目をお願いしたい。向こうにいけば、京の奉行として、村井吉兵衛という侍があります。吉兵衛とは懇意です。拙者の名代として来たといえば、それなりに持成してくれましょう」
玉子との話は亡くなったようだ ―― ひと安心だ。
が、別の嫁を妻合わせる?
―― 余計にお世話だ、吾が一緒になりたいのは十兵衛だ!
「ところで、太若丸殿、その……、玉子と何かござりましたか?」
と、訊いてきた。
何かと首を傾げると、
「その……、何事か契ったとか……、例えば、夫婦のような……」
太若丸は首を振る。
夫婦のような行為はしたが、夫婦になる約束などしていない………………まあ、玉子のほうは、幾分本気のようだが………………
「左様ですか……、いや、何やら妻からそのようなことを聞いたので……、それで京に行かすなど、情けもないなどと詰られまして……」
太若丸は、ないないと慌てて首を振る。
「そうですか? 拙者は、太若丸殿なら、玉子の婿にとは思いますが。まあ、あの跳ね上がり者を、太若丸殿が好いてくれればですが……」
「なんじゃ、太若丸殿と玉子殿は、そういった仲なのか?」
十兵衛も口を挟んできた。
ややこしいは話になりそうだ。
全くござらんと、否定する。
「いや、拙者も、太若丸殿と玉子殿なら、お似合いと思うぞ」
十兵衛の言葉に、他の者まで頷く始末。
「お互いついてるものが違うのだ。ちょうど良いではないか」
と、伝五は笑う ―― 飲み過ぎではないか?
「何なら、太若丸殿を十兵衛の養子にして、玉子殿と妻合わせても良いのではないか?」
内蔵助が言う。
「それは良い!」、伝五は膝を叩く、「それはまことに結構! 主と家臣が縁続きになれば、明智の家も安泰じゃ!」
庄兵衛も、次右衛門も、それは良いと頷く。
首を振るのは、太若丸だけ。
吾がなりたいのは、十兵衛の子ではない、十兵衛の妻なのだ。
「ならば、京に立つ前にでも仮祝言を……」
話がどんどん進んでいく。
さすがにそれは……と声を上げようとすると、
「いや、待て!」と、十兵衛が遮った、「太若丸殿と玉子殿の件はなしだ」
皆が首を傾げる。
太若丸は、ほっと安心だ。
「玉子殿は……、他の男と妻合わせる、おぬしの娘とは思えぬぐらい器量よしだ、気が強いところも侍の妻として上々、他の侍と縁を持つために使わせてもらうぞ。これも、武家の娘に生まれた性だと思ってな」
「別段、それは構わんが……、拙者としては、ただ娘が良縁に恵まれれば良いだけだ。まあ、妻が煩かろうが……」
「太若丸殿には、そのうち、拙者が良い嫁を妻合わせましょう。それよりも、まずは京でのお役目をお願いしたい。向こうにいけば、京の奉行として、村井吉兵衛という侍があります。吉兵衛とは懇意です。拙者の名代として来たといえば、それなりに持成してくれましょう」
玉子との話は亡くなったようだ ―― ひと安心だ。
が、別の嫁を妻合わせる?
―― 余計にお世話だ、吾が一緒になりたいのは十兵衛だ!
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