本能寺燃ゆ

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第三章「寵愛の帳」

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「嫁をとって、いよいよ落ち着いたか。これではもう、あっちだこっちだと主を変えられんな」

「いままで以上の苦労はさせんよ」

「どうだか。おぬしのことだ、どうせ末は将軍にとか思っているんじゃなかろうな? もういい年だ、嫁もいるし、跡継ぎもできた。ここらで落ち着け、足場を固めろよ」

「足場は固めてござるよ、天下のために。ここまでくれば、淡海の対岸まで見渡せるように、天下も視中でござる」

「けっ、何を言ってやがる」、八郎は鼻で笑う、「人ってもんは、五十までだ、謡曲うたにもあるだろう、『敦盛あつもり』か? おぬし、いくつだ? あと何年生きられる?」

「寂しいこと言うなよ、これでも、身体に気をつかっておる」

「なら、濁酒は止めるんだな」

 と、八郎は十兵衛の濁酒を取り上げようとする。

「おいおい、濁酒は百薬の長だ」

 と、十兵衛は慌て飲み干した。

「けっ、大体将軍になってどうする? なぜ、それほどまでにして将軍になりたい? 上手い飯食って、酒飲んで、綺麗な女でも抱きたいか?」

「それは良い!」

「くだらん!」

 八郎は鼻で笑う。

「うむ、世の中とはくだらん、だから少しでも面白くしようと生きておるのではないか」

「それが、将軍か?」

「まあ……、なんだ……、拙者はただ、みんなが笑って暮らせる世の中ができれば良いだけよ」

「ふん、くだらん!」

「ならば、おぬしは如何に?」

「俺は、俺が楽しければそれでいい。好きなことをして金を稼ぎ、飯を食い、酒を飲み、女を抱く。たとえ天長だろうが、将軍だろうが、弾正忠だろうが、それを邪魔させぬ。もちろん、おぬしでもあっても。まあ、もし将軍ってぇのが、商いよりも面白いのなら、なってやってもいいがな」

「そんなに簡単になれれば、苦労はせんよ」

「俺なら、簡単にとってみせるぜ」

「それは、面白い!」
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