本能寺燃ゆ

hiro75

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第三章「寵愛の帳」

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「公方様は、殿のこういったことも見透かしておられるのかもしれん。あの人も、なかなか食えない人だからな」

 十兵衛の言葉に、珍しく左馬助は頷いていた。

「普請自体は、他の武将たちにやらせるですが、それでは殿も申し訳ないと、では人足たちや職人たちに喜んで働いてもらおうと、稚児や若衆を出そうとなったわけです」

 派遣されるのが、稚児や若衆というのが曲者である。

 男衆を喜ばせるのなら、女のほうが良い。

 女は女で、すでに飯場の周りに用意はされているそうだ。

 では、稚児や若衆は何をするのか?

 作業の要所要所に立ち、そこで太鼓や笛を鳴らして舞い踊って欲しいとのこと ―― そうすれば、人足や職人たちも楽しんで、仕事も捗るらしい………………?

 とは、表向きである。

 本当の目的は、それらを監視して欲しいとのこと。

 普請や作事を受け持つ武将や職人たちが、邸宅に変な細工をしないか、見張って欲しいとのことらしい。

「それで殿から、それぞれの息子や小姓を出すように言われまして、残念ながら、拙者の子、十五郎じゅうごろうはまだ赤子、この中にも年頃の息子を持つものはおらん」

 左馬助は、まだ玉子のみ。

 伝五と庄兵衛の息子たちは、若衆というには年を食いすぎている。

 一方の内蔵助は子だくさんで娘たちは良い年だが、息子たちは稚児というには年若い。

 次右衛門は、まだ相手もおらぬ。

 十兵衛自身は小姓を持たない。

 その辺の侍や足軽連中の子を送ってもいいが、良き働きをしてくれるか心もとない。

 となると、稚児で、しかも目端が利く太若丸が適任では………………と、なったらしい。

 京に行くとなれば、また十兵衛と離れ離れになるのか?

 折角再会したのに………………

「これは、拙者の名代でもあります。こんなことを頼めるのは、太若丸殿しかいません」

 あの人好きする笑顔で十兵衛からそう言われると、嬉しい。

 それに、玉子との件もある。

 少し距離を取り、お互いに ―― というか、玉子のほうだが、頭を冷やさないと、これ以上は面倒なことになる。

「向こうの普請が終われば、また戻ってきてください」

 最後に十兵衛からそう言われたので、ならばと承った。
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