本能寺燃ゆ

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第三章「寵愛の帳」

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 永禄十一(一五六八)年七月、十兵衛が仲介のもと、信長と義昭は会見し、義昭が将軍になるため、信長が支援するという契りを結んだ。

 信長は破竹の勢いで京まで進出し、十月には義昭は征夷大将軍に補任された。

 その時、内裏にかなりの金を積んだのも、信長だ。

 義昭は、この働きに、『御父』と感謝状を贈ったらしい。

 翌十二(一五六九)年、正月明け早々、義昭の定宿であった本国寺(現在は本圀寺)が、巻き返しを狙った三好三人衆に襲われる。

 この時、十兵衛たちも奉公衆として防衛したらしい。

「いや~、何せこちらは数十、敵は数千、もう駄目かと思いましたよ」

 と、十兵衛は大げさに言ってみせた。

 戦は、奉公衆や若狭衆の活躍で、何とか防いだが、これを聞いた信長が、大雪の中、岐阜から二日あまりで救援に駆け付けたらしい。

 その迅速な働きに、義昭はまた感動したとか。

 それだけでなく、公方様が都に屋敷がないとは問題だと、二条に将軍御所を普請させたとか。

 もう、信長様々である。

 義昭とすれば、己が将軍として天下を差配するのを、信長は補佐してくれるのだろうという考えがあったのだろう。

 信長を、副将軍にと内裏に要請している。

 が、当の信長がこれを断った。

 さらに、二条の御所ができると、岐阜に引っ込んでしまう。

 信長からすれば、将軍になったのだから、あとは自ら天下を差配しなさいよ、こっちは領内のことで手いっぱいで、そこまで相手をしている暇はありませんよ、何かあれば言ってください、その時は駆け付けますから………………その程度だったのだろう。

 というよりも、もともと義昭の配下に入るつもりもなかったのかもしれない。

「あれだけ力の差、金の差を見せつけられれば、どちらに天下を差配する力量があろうか、傍で見ていて分かります。殿は、そこを見切られたのでしょう。その点は、拙者と似ております」

 十兵衛も、この辺りで将軍義昭に見切りをつけたらしい。

 弾正忠の動向を探りますと義昭に断り、そのまま信長についていったらしい。

 織田の家内では、「なんだ、こやつは?」となったらしいが、そこは昔好の藤吉郎が口を利いてくれたらしい。

 信長も、十兵衛の目聡いところを気に入ったようだ。

「義」よりも、「利」に聡い ―― 十兵衛の言葉に、左馬助はむっとしていた。
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