本能寺燃ゆ

hiro75

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第三章「寵愛の帳」

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 そんな折り、十兵衛から話があった。

 十兵衛たちと夕餉をとっていた。

 左馬助や次右衛門たちとともに、石垣の状況はどうだ、材木が来るのが思ったよりも遅くなりそうだとか、あそこは人が足りないので、あと何人か回せないかとか、築城の話から、あそこの村から何事か頼みごとがあるらしい、あっちの村では水が少ないのでどうかならぬかと、なら明日でも見てみようなど、村々の差配まで話し合っていた。

 それも一頻り終わったところで、

「太若丸殿、京へ行きませぬか?」

 と、十兵衛から言われた。

「いま京に、殿が定宿とされる屋敷を普請しておる。そこで働く職人や人足の慰安のために、稚児や若衆をおいてはどうかとの話なのだ」

 ことのはじまりは、将軍足利義昭あしかがよしあきの帝への上奏である。

 信長は、京に上がった際は、二条の妙覚寺を宿に使っていた。

 妙覚寺のほかにも、本能寺など寺を宿とすることが多い。

 再々出向いてくるのに、京に屋敷がないのは不便だろうと、義昭が武者小路の空き地を邸宅にするのは如何かと、帝にお願いしたらしい。

 これに対して帝から快い返事があったので、将軍の名で普請させようとなったらしい。

 この弥生半ばの話である。

「殿は何度も断られたのだがな………………」

 義昭がどうしてもというので、仕方なしだそうだ。

 信長の居城は、岐阜城である。

 公方の補佐をするなら、京にいるほうがいい。

 将軍がお飾りとなっても、管領や側近衆は京に入るか、その周辺に集まってきた。

 頼朝公が、鎌倉に幕府を開いたといっても、政の中心は京であった。

 やはり京は、それだけ重要な場所であり、多くの侍たちが天下に号令をかけるために目指す場所でもある。

 信長は、将軍義昭から『御父』と頼りにされる武将である。

 本来なら、義昭の傍にいるのが当たり前だし、義昭も心強いだろう。

 また、『天下布武』を旗印にしている。

 自らが将軍になるのでは………………とも見られている。

 それなら、京のほうが何かと便利なはずだが………………

 が、信長は岐阜から動かない。

 用があれば出向くまでで、それ以外は岐阜に留まっている。

 なぜか?

「恐らく、公方様の風下に入るつもりはないからであろう」

 と、十兵衛はさも当然のように言う。

 信長と将軍義昭、さほど仲が良いという訳でもないそうだ。
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