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第三章「寵愛の帳」
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実際、玉子の相手をする太若丸も大変なのである。
いまは、三日に一度ぐらいだが、太若丸が抑えなければ毎日のように馬の稽古に出ようと誘う。
乗るのは馬ではなく、太若丸の上だが………………
そんなに毎日遠乗りをしては、ご母堂様たちに怪しまれますからと苦言を呈すると、案の定むすっとした表情で、明らかに態度が悪くなる。
この前など、厩に連れ込まれ、押し倒されそうになったぐらいだ。
無理やり逃げると、そのあとの剣術の稽古で、さんざん打ちのめされた。
なぜ、そんなにしたいのかと問うた。
「太若丸殿は、吾としたくはないですか?」
と、目を潤ませて訊いてくる。
玉子がどうとかの問題ではなく、したいか、したくないかと問われれば、別段しなくてもいい。
というよりも、心身のためにも、そういうものは極力控えたほうがいい。
「坊主みたいなこと言いますね、太若丸殿は」
玉子は、けらけらと笑う。
それは、曲がりなりにも坊主の修行を積んだので。
欲望を抑えることは大切なことですよ。
「そんな辛気臭いことを」
これは僧だけでなく、武将も同じことかと思いますよ。
「う~ん、そうですか? 侍なんて、やりたい放題ではないですか?」
それは下層の足軽連中で、武将となれば、己の欲を抑えなければ務まりませんよ。
玉子は、首を捻る。
どうも納得いかないようだ。
「父や十兵衛様たちも、母や煕様と毎晩のように睦会っていますよ」
いや、それは、夫婦ですから。
「ならば、吾と夫婦になりましょう」
玉子様と?
戯言を?
玉子は、にんまりと笑う。
「吾と夫婦になるのは嫌ですか?」
それには答えず………………ともかく、玉子様はもう少し抑えた方が宜しい、少しは仏の勉強をなされるべきです。
「めんどい!」の一言である、「そんなかび臭いことを学ぶより、吾は子作りのことを学んだ方が楽しい。立派な子を産むこと、それには殿方に心持よく子種の汁を注ぎ込んでもらえるように、床上手にならねば、これも武家の娘に必要な嗜みでござろう」
そのまま押し倒される始末。
あれほど、子を産むことを嫌がっていたのに。
しかし床上手などという言葉、一体どこで学んだのやら?
子作りを学びたいのではない。
いまの玉子は、ただ欲に囚われているのだ。
何とかしなければ、今後の玉子も心配であるし、このままだと、太若丸のほうが身体を壊してしまう。
いまは、三日に一度ぐらいだが、太若丸が抑えなければ毎日のように馬の稽古に出ようと誘う。
乗るのは馬ではなく、太若丸の上だが………………
そんなに毎日遠乗りをしては、ご母堂様たちに怪しまれますからと苦言を呈すると、案の定むすっとした表情で、明らかに態度が悪くなる。
この前など、厩に連れ込まれ、押し倒されそうになったぐらいだ。
無理やり逃げると、そのあとの剣術の稽古で、さんざん打ちのめされた。
なぜ、そんなにしたいのかと問うた。
「太若丸殿は、吾としたくはないですか?」
と、目を潤ませて訊いてくる。
玉子がどうとかの問題ではなく、したいか、したくないかと問われれば、別段しなくてもいい。
というよりも、心身のためにも、そういうものは極力控えたほうがいい。
「坊主みたいなこと言いますね、太若丸殿は」
玉子は、けらけらと笑う。
それは、曲がりなりにも坊主の修行を積んだので。
欲望を抑えることは大切なことですよ。
「そんな辛気臭いことを」
これは僧だけでなく、武将も同じことかと思いますよ。
「う~ん、そうですか? 侍なんて、やりたい放題ではないですか?」
それは下層の足軽連中で、武将となれば、己の欲を抑えなければ務まりませんよ。
玉子は、首を捻る。
どうも納得いかないようだ。
「父や十兵衛様たちも、母や煕様と毎晩のように睦会っていますよ」
いや、それは、夫婦ですから。
「ならば、吾と夫婦になりましょう」
玉子様と?
戯言を?
玉子は、にんまりと笑う。
「吾と夫婦になるのは嫌ですか?」
それには答えず………………ともかく、玉子様はもう少し抑えた方が宜しい、少しは仏の勉強をなされるべきです。
「めんどい!」の一言である、「そんなかび臭いことを学ぶより、吾は子作りのことを学んだ方が楽しい。立派な子を産むこと、それには殿方に心持よく子種の汁を注ぎ込んでもらえるように、床上手にならねば、これも武家の娘に必要な嗜みでござろう」
そのまま押し倒される始末。
あれほど、子を産むことを嫌がっていたのに。
しかし床上手などという言葉、一体どこで学んだのやら?
子作りを学びたいのではない。
いまの玉子は、ただ欲に囚われているのだ。
何とかしなければ、今後の玉子も心配であるし、このままだと、太若丸のほうが身体を壊してしまう。
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