本能寺燃ゆ

hiro75

文字の大きさ
上 下
171 / 498
第三章「寵愛の帳」

15

しおりを挟む
 実際、玉子の相手をする太若丸も大変なのである。

 いまは、三日に一度ぐらいだが、太若丸が抑えなければ毎日のように馬の稽古に出ようと誘う。

 乗るのは馬ではなく、太若丸の上だが………………

 そんなに毎日遠乗りをしては、ご母堂様たちに怪しまれますからと苦言を呈すると、案の定むすっとした表情で、明らかに態度が悪くなる。

 この前など、厩に連れ込まれ、押し倒されそうになったぐらいだ。

 無理やり逃げると、そのあとの剣術の稽古で、さんざん打ちのめされた。

 なぜ、そんなにしたいのかと問うた。

「太若丸殿は、吾としたくはないですか?」

 と、目を潤ませて訊いてくる。

 玉子がどうとかの問題ではなく、したいか、したくないかと問われれば、別段しなくてもいい。

 というよりも、心身のためにも、そういうものは極力控えたほうがいい。

「坊主みたいなこと言いますね、太若丸殿は」

 玉子は、けらけらと笑う。

 それは、曲がりなりにも坊主の修行を積んだので。

 欲望を抑えることは大切なことですよ。

「そんな辛気臭いことを」

 これは僧だけでなく、武将も同じことかと思いますよ。

「う~ん、そうですか? 侍なんて、やりたい放題ではないですか?」

 それは下層の足軽連中で、武将となれば、己の欲を抑えなければ務まりませんよ。

 玉子は、首を捻る。

 どうも納得いかないようだ。

「父や十兵衛様たちも、母や煕様と毎晩のように睦会っていますよ」

 いや、それは、夫婦ですから。

「ならば、吾と夫婦になりましょう」

 玉子様と?

 戯言を?

 玉子は、にんまりと笑う。

「吾と夫婦になるのは嫌ですか?」

 それには答えず………………ともかく、玉子様はもう少し抑えた方が宜しい、少しは仏の勉強をなされるべきです。

「めんどい!」の一言である、「そんなかび臭いことを学ぶより、吾は子作りのことを学んだ方が楽しい。立派な子を産むこと、それには殿方に心持よく子種の汁を注ぎ込んでもらえるように、床上手にならねば、これも武家の娘に必要な嗜みでござろう」

 そのまま押し倒される始末。

 あれほど、子を産むことを嫌がっていたのに。

 しかし床上手などという言葉、一体どこで学んだのやら?

 子作りを学びたいのではない。

 いまの玉子は、ただ欲に囚われているのだ。

 何とかしなければ、今後の玉子も心配であるし、このままだと、太若丸のほうが身体を壊してしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

1333

干支ピリカ
歴史・時代
 鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。 (現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)  鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。  主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。  ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

大航海時代 日本語版

藤瀬 慶久
歴史・時代
日本にも大航海時代があった――― 関ケ原合戦に勝利した徳川家康は、香木『伽羅』を求めて朱印船と呼ばれる交易船を東南アジア各地に派遣した それはあたかも、香辛料を求めてアジア航路を開拓したヨーロッパ諸国の後を追うが如くであった ―――鎖国前夜の1631年 坂本龍馬に先駆けること200年以上前 東の果てから世界の海へと漕ぎ出した、角屋七郎兵衛栄吉の人生を描く海洋冒険ロマン 『小説家になろう』で掲載中の拙稿「近江の轍」のサイドストーリーシリーズです ※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載します

【完結】電を逐う如し(いなづまをおうごとし)――磯野丹波守員昌伝

糸冬
歴史・時代
浅井賢政(のちの長政)の初陣となった野良田の合戦で先陣をつとめた磯野員昌。 その後の働きで浅井家きっての猛将としての地位を確固としていく員昌であるが、浅井家が一度は手を携えた織田信長と手切れとなり、前途には様々な困難が立ちはだかることとなる……。 姉川の合戦において、織田軍十三段構えの陣のうち実に十一段までを突破する「十一段崩し」で勇名を馳せた武将の一代記。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

処理中です...