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第三章「寵愛の帳」
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「それにしても……」、唐突に玉子は頬を膨らませる、「母上は煩い。歌だ、手習いだ、女の嗜みだ、嫁に行けとか、子を産めとか……」
それほど、心配されているのですよ、と宥める。
「心配? 誰の? 母上が心配しておるのは、家のことですよ。家を守るのが武家の女の務めとか……、大した家柄でもないのに。父はもともと職人ですよ」
母は、明智家の遠縁にあたるらしいが、それでも水呑百姓が胴巻きを巻いている程度の家らしい。
「家を守れなど、めんどい! 嫁に行くのも、子を産むのも、めんどい!」
ならば、何がしたいのですと問うと、
「決まっているではないですか、戦に出たいのですよ。父や十兵衛様と一緒に戦場に出たいのですよ」
それは勇ましいと、太若丸は笑った。
「でも、出してはくれないのですよ。父は、どちらでもいいようですが、母は絶対に駄目なのです。婿を取って、子を産むのが女の務めだとばかり。ああ、なぜ女に生まれたのでしょう。太若丸が羨ましい」
太若丸は、女である玉子のほうが羨ましいと思った。
「いっそのこと、まことに替えてみますか? あれを?」
戯言か?
玉子の顔を見るが、いたく真剣である。
「太若丸殿は、御山の稚児だったのですよね? ということは、その……、そういうことをしていたんですよね?」
そういうこと?
―― ああ、僧の『無明火』を消すことか。
「その……、どうなのですか、それは? その……、どんな具合なのですか?」
玉子は、興味津々で顔を近づけてくる。
どうと言われても………………
「吾は、まだそういうことしたことがなくて………………、ですが、子を産めというからには、そういうことをしなければならないでしょう? ですが、母は、まだ早いと教えてくれないのですよ。その前に、手習いや歌をしっかり会得しなさいと」
まあ、そうでしょうね。
「でも、知っていて損はないと思うのですよ」
それはそうですが………………
「ついてるものを交換とはいいますが、吾も、殿方にどんなものがついているか、詳しくは知りませんから。小さいころ、父のものを見たぐらいですかね? あれがついているのですか、太若丸殿にも?」
玉子は、太若丸の股間を見つめる。
太若丸は、慌てて両手で隠す。
「太若丸殿にもついているのですか? とてもそんな風には思えない、だって女のようだから……」
己も、なぜこんなものがついているのか、不思議である。
「太若丸殿……」、玉子はごくりと喉を鳴らす、「一度、吾に見せてもらえませぬか?」
は? と、太若丸は首を傾げた。
「いえ、嫁に行くなら、どうせ見なければならぬし、見慣れておいたほうが良いかと………………、まあ、行きたくはないですが、なら試しておくにこしたことはないかと………………」
いや、しかし………………
「いいじゃないですか、減るものでもないし。それに、吾は太若丸殿にも、まことにあれがついているのか見てみたい」
さあさあと、腰ひもに手を伸ばす。
いやいやと、身を捩る。
まるで、襲うおっさんと、嫌がる娘のようだ。
それほど、心配されているのですよ、と宥める。
「心配? 誰の? 母上が心配しておるのは、家のことですよ。家を守るのが武家の女の務めとか……、大した家柄でもないのに。父はもともと職人ですよ」
母は、明智家の遠縁にあたるらしいが、それでも水呑百姓が胴巻きを巻いている程度の家らしい。
「家を守れなど、めんどい! 嫁に行くのも、子を産むのも、めんどい!」
ならば、何がしたいのですと問うと、
「決まっているではないですか、戦に出たいのですよ。父や十兵衛様と一緒に戦場に出たいのですよ」
それは勇ましいと、太若丸は笑った。
「でも、出してはくれないのですよ。父は、どちらでもいいようですが、母は絶対に駄目なのです。婿を取って、子を産むのが女の務めだとばかり。ああ、なぜ女に生まれたのでしょう。太若丸が羨ましい」
太若丸は、女である玉子のほうが羨ましいと思った。
「いっそのこと、まことに替えてみますか? あれを?」
戯言か?
玉子の顔を見るが、いたく真剣である。
「太若丸殿は、御山の稚児だったのですよね? ということは、その……、そういうことをしていたんですよね?」
そういうこと?
―― ああ、僧の『無明火』を消すことか。
「その……、どうなのですか、それは? その……、どんな具合なのですか?」
玉子は、興味津々で顔を近づけてくる。
どうと言われても………………
「吾は、まだそういうことしたことがなくて………………、ですが、子を産めというからには、そういうことをしなければならないでしょう? ですが、母は、まだ早いと教えてくれないのですよ。その前に、手習いや歌をしっかり会得しなさいと」
まあ、そうでしょうね。
「でも、知っていて損はないと思うのですよ」
それはそうですが………………
「ついてるものを交換とはいいますが、吾も、殿方にどんなものがついているか、詳しくは知りませんから。小さいころ、父のものを見たぐらいですかね? あれがついているのですか、太若丸殿にも?」
玉子は、太若丸の股間を見つめる。
太若丸は、慌てて両手で隠す。
「太若丸殿にもついているのですか? とてもそんな風には思えない、だって女のようだから……」
己も、なぜこんなものがついているのか、不思議である。
「太若丸殿……」、玉子はごくりと喉を鳴らす、「一度、吾に見せてもらえませぬか?」
は? と、太若丸は首を傾げた。
「いえ、嫁に行くなら、どうせ見なければならぬし、見慣れておいたほうが良いかと………………、まあ、行きたくはないですが、なら試しておくにこしたことはないかと………………」
いや、しかし………………
「いいじゃないですか、減るものでもないし。それに、吾は太若丸殿にも、まことにあれがついているのか見てみたい」
さあさあと、腰ひもに手を伸ばす。
いやいやと、身を捩る。
まるで、襲うおっさんと、嫌がる娘のようだ。
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