本能寺燃ゆ

hiro75

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第二章「性愛の山」

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 御山は、騒がしかった。

 昼でも静寂が支配する世界だが、夜にはまるでこの世の全てが止まったような静寂………………というよりも、死が支配するような、恐ろしい世界だ。

 だが、今宵は騒々しい。

 三塔十六谷すべての寺に篝火が焚かれ、御山全体がそれこそ炎に包まれたように光り輝いている。

 太若丸のいるお堂の庭にも篝火が置かれ、本堂にも火が入れられ、まるで昼間のようだ。

 安仁たちが、本堂でお経を唱えている。

 安寿は、駆け込んできた里坊の女や子どもたちの世話をしている。

 安慈はどこに行ったかしらないが、僧兵たちが薙刀や刀をかたかたと鳴らし、出陣はいまかいまかと待ち構えている。

 太若丸は、邪魔になるからと寝室にいる。

 横になっているが、御山全体が殺気立って、興奮して眠れない。

 先程から、右や左やと寝返りを打つ。

 村から出て、運がいいのか、悪いのか、御山に売られ、稚児となった。

 村にいては味わえないような菓子を口にしたり、絵物語を読んだり、豪奢な品物を手にすることができた。

 大人たちから、ちやほやされた。

 このまま、僧を相手にする生活が続くのかと思っていたが、今度は戦乱だ。

 村で、落ち武者狩りのために寺上りしたときとは、規模が違う。

 あのときは十兵衛がいてくれた安心感があったが、今度はどうなるのだろう?

 安仁も、安寿も、仏の力を信じているのか、それとも御山の生活が長くて浮世離れしているのか、何処か他所事のようだ。

 むしろ好戦的ではあるが、目の前の現実をしっかりと見据え、立ち向かおうとしている安慈のほうが頼りになるのだが………………などと思いながら、何度も寝返りを打っていた。

 が、やはり眠気には勝てなかったようだ。

 少しうとうとしたらしい。

 かたりという音で、寝ていたと気が付いた。

 障子の開く音がする。

 安寿が、何やら用件を言いに来たのだろうか?

 気配が入ってくると、障子を閉め、音を立てずに近寄ってくる。

 違うようだ。

 安寿なら、その場で起こすはずだ。

 安覚だろうか?

 安寿とともに女子どもたちの世話をしているはずだが、もしや女たちを見て欲情し、太若丸にそれを消すために頼みにきたのか?

 相変わらず、欲に素直な、可愛いやつである。

 その気配が覆いかぶさってくる。

 顔を覗き込んでいるようだ ―― 安覚なら………………、そんなことはしない。

 遠慮しながらも、肩をとんとんと叩くはず。

 なら、誰か?

 気になって目を開けると、目の前に安慈の顔があった。

 思わず声を上げてしまった。
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