本能寺燃ゆ

hiro75

文字の大きさ
上 下
150 / 498
第二章「性愛の山」

73

しおりを挟む
 御山は、騒がしかった。

 昼でも静寂が支配する世界だが、夜にはまるでこの世の全てが止まったような静寂………………というよりも、死が支配するような、恐ろしい世界だ。

 だが、今宵は騒々しい。

 三塔十六谷すべての寺に篝火が焚かれ、御山全体がそれこそ炎に包まれたように光り輝いている。

 太若丸のいるお堂の庭にも篝火が置かれ、本堂にも火が入れられ、まるで昼間のようだ。

 安仁たちが、本堂でお経を唱えている。

 安寿は、駆け込んできた里坊の女や子どもたちの世話をしている。

 安慈はどこに行ったかしらないが、僧兵たちが薙刀や刀をかたかたと鳴らし、出陣はいまかいまかと待ち構えている。

 太若丸は、邪魔になるからと寝室にいる。

 横になっているが、御山全体が殺気立って、興奮して眠れない。

 先程から、右や左やと寝返りを打つ。

 村から出て、運がいいのか、悪いのか、御山に売られ、稚児となった。

 村にいては味わえないような菓子を口にしたり、絵物語を読んだり、豪奢な品物を手にすることができた。

 大人たちから、ちやほやされた。

 このまま、僧を相手にする生活が続くのかと思っていたが、今度は戦乱だ。

 村で、落ち武者狩りのために寺上りしたときとは、規模が違う。

 あのときは十兵衛がいてくれた安心感があったが、今度はどうなるのだろう?

 安仁も、安寿も、仏の力を信じているのか、それとも御山の生活が長くて浮世離れしているのか、何処か他所事のようだ。

 むしろ好戦的ではあるが、目の前の現実をしっかりと見据え、立ち向かおうとしている安慈のほうが頼りになるのだが………………などと思いながら、何度も寝返りを打っていた。

 が、やはり眠気には勝てなかったようだ。

 少しうとうとしたらしい。

 かたりという音で、寝ていたと気が付いた。

 障子の開く音がする。

 安寿が、何やら用件を言いに来たのだろうか?

 気配が入ってくると、障子を閉め、音を立てずに近寄ってくる。

 違うようだ。

 安寿なら、その場で起こすはずだ。

 安覚だろうか?

 安寿とともに女子どもたちの世話をしているはずだが、もしや女たちを見て欲情し、太若丸にそれを消すために頼みにきたのか?

 相変わらず、欲に素直な、可愛いやつである。

 その気配が覆いかぶさってくる。

 顔を覗き込んでいるようだ ―― 安覚なら………………、そんなことはしない。

 遠慮しながらも、肩をとんとんと叩くはず。

 なら、誰か?

 気になって目を開けると、目の前に安慈の顔があった。

 思わず声を上げてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大航海時代 日本語版

藤瀬 慶久
歴史・時代
日本にも大航海時代があった――― 関ケ原合戦に勝利した徳川家康は、香木『伽羅』を求めて朱印船と呼ばれる交易船を東南アジア各地に派遣した それはあたかも、香辛料を求めてアジア航路を開拓したヨーロッパ諸国の後を追うが如くであった ―――鎖国前夜の1631年 坂本龍馬に先駆けること200年以上前 東の果てから世界の海へと漕ぎ出した、角屋七郎兵衛栄吉の人生を描く海洋冒険ロマン 『小説家になろう』で掲載中の拙稿「近江の轍」のサイドストーリーシリーズです ※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載します

【完結】電を逐う如し(いなづまをおうごとし)――磯野丹波守員昌伝

糸冬
歴史・時代
浅井賢政(のちの長政)の初陣となった野良田の合戦で先陣をつとめた磯野員昌。 その後の働きで浅井家きっての猛将としての地位を確固としていく員昌であるが、浅井家が一度は手を携えた織田信長と手切れとなり、前途には様々な困難が立ちはだかることとなる……。 姉川の合戦において、織田軍十三段構えの陣のうち実に十一段までを突破する「十一段崩し」で勇名を馳せた武将の一代記。

1333

干支ピリカ
歴史・時代
 鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。 (現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)  鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。  主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。  ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

処理中です...