本能寺燃ゆ

hiro75

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第二章「性愛の山」

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 太若丸は寝室に帰り、さて、今夜は安仁様のところへ行くのだなと仕度を始めようとしたところ、再び安寿から呼び出しがあった。

 一日に二度、何だろう………………、もしや、安寿もいよいよしたくなったのか………………などと思って、彼の部屋に行った。

「今夜は、安仁様のもとに行かぬとも良い。『三塔詮議』がありますので」

 そこに、大講堂の鐘が御山中に木霊した。

『三塔詮議』の招集である ―― 御山の僧侶すべてが大講堂に集まるのだ。

 お堂の僧も、安覚を含めて全て出張るので、今宵はお勤めはなしだと言われた。

「後学のためです。そなたも参りますか?」

 と聞かれたので、頷いた。

 東塔の大講堂の庭には、御山中の僧が詰めかけていた。

 篝火が焚かれ、僧たちの顔を照らしつける。

 あれやこれやと怒鳴る者、こそこそと話す者、ただ目を瞑り、じっと端座する者などいるが、みな一様に興奮しているが見て取れた。

 太若丸は、正直驚いた ―― 御山に、こんなに僧がいようとは………………

「三塔すべての僧が集まっていますので、ざっと三千人はいますかね。これでも、一時期よりは少なくなっています」

 太若丸も、三塔のことは知っている。

 御山は、大まかに三つの場所に区分される。

 比叡山発祥の地で、根本中堂がある東塔、それより北にある二代目座主寂光大師が開いた西塔、そしてさらに北に位置する三代目座主慈覚大師が築いた横川だ。

 この三塔を更に分けて………………

  東塔に、東谷、南谷、西谷、北谷、無動寺谷の五つ

  西塔に、東谷、南谷、北谷、南尾谷、北尾谷の五つ

  横川に、般若谷、香芳かほう谷、戒心谷、解脱谷、、兜率とそつ谷、飯室谷の六つ

 あわせて十六谷の、俗にいう『三塔十六谷』である。

 ここに、別所や坂本周辺の里坊などをあわせると、比叡山が如何に巨大な組織で、力を持っていたかが分かる。

 この強大な組織の頂点に、天台座主がいる。

 だが、如何に座主であろうと、国家の鎮護や、御山全体に関わる事項、強訴や出兵の有無などは一人では決められない。

 こうやって、三塔十六谷の僧侶すべてが集まって決めるらしい。

 それは、僧は師弟の関係はあっても、元来上下関係のない一個の独立した人格とみなされていた。

 故に、寺法はあるが、それぞれが責任を持って独自に判断で行動するというのが基本である。

 そのため、御山を動かすような大事には、座主といえども独断で決定することはできず、必ず僧が集まり、それぞれの意見を述べ、御山として如何にすべきかを協議し、決定する。

 これが、『三塔詮議』である。
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