本能寺燃ゆ

hiro75

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第二章「性愛の山」

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 村にいたときは、大人というのは怖くて、厳しいものだと思っていたが、まあ、優しい大人もいたが、村の和尚も柔和な顔はしていたが、どことなく近づきがたい人であって、いまのようにちやほやされたことなど皆無だ。

 村にいては、ただの餓鬼だが、ここでは、まさに神様仏様扱いだ。

 いや、仏様なのだ。

 そうだ、女は仏なのだと思った。

 男にとって女は観音菩薩で、彼らの『無明火』を消すことができる、至高の存在なのだと。

 姉は、観音菩薩だったのだ。

 だから、村の男たちは姉を求めようとした、まあ、姉は全て拒否していたが。

 また、姉に選ばれた十兵衛はそのご加護を得て、また、あの山賊たちも姉から有難くも慰みを得た。

 おみよもまた、観音菩薩だ ―― いまなら、太若丸がおみよと初めてしたときの激しい快感の意味が分かる。

 まさに、あの快感は悟りを得たときのような爽快感がある ―― とはいうものの、太若丸にはまだ、悟りを得られた時の快感など分かるはずもないのだが………………

 あの老婆のもとにいた女たちも観音菩薩で、夜ごと欲望に塗れた男たちのために、体を与えていたのだ。

 太若丸は、その存在になった ―― 僧に悟りを開かせる最高の存在に。

 そして、悟りを得た男たちは、更なる悟りを得ようと、太若丸に縋ってくる。

 太若丸のいうことなら、なんでも聞くようになる。

 実際安覚も、それで手なずけてしまった。

 相手の寝室に向かう際は、必ず安覚が同行する。

 火桶で尻を温めるとき、彼は太若丸の桃のような尻を、凝視している。

 太若丸が使い終わった紙を大事に仕舞い ―― 本当は隠れて捨てなければいけないのだが ―― ときおり、それを懐から出して、匂いを嗅いでいる。

 ああ、そういう傾向があるのだなと、太若丸は笑う。

 ならと、もっと滑らせるために、直接舐めてくれと頼むと、彼は喜んでお尻の谷間に顔を埋め、まるで犬のように舌を動かす。

 くすぐったいが、鬼のような相貌の男が、喜んで窄んだ肉穴を舐めているのだから、滑稽である。

 最近は、『無明火』も消してやっている。

 彼のモノは、多分この寺で一番大きくて、硬い。

 出し入れされると、お腹が捲れ上がりそうな、少々恐怖を感じたが、果てるときは、まるで子犬のように鳴く。

 それもまた、可笑しい。

 安覚は、もはや召使である。

 そうだ、己のいう事を聞かせたいのなら、穴を使わせてやればいい。

 厳格な僧ですら、穴に入れたくてうずうずしているのだから、平凡な男ならいちころだ。

 ああ、何という快感だろう ―― たかが穴ひとつで、男たちが慌てふためき、悦ぶのだから………………

 だがひとり、太若丸の意にならない人がいる。

 安寿である。

 稚児の経験があり、何かと指導をしてくれるが、手は出してこない。

 その癖、あの老婆のところに行って、女たちとは交合ねるようだ。

 なぜ、安寿は太若丸ではなく、女たちを求めるのか?

『稚児は欲望の種を残さない』が、『女は欲望の種(子)を残す』 ―― 故に、僧は稚児と寝よ ―― というのが、稚児灌頂の屁理屈である。

 まして、稚児は観音菩薩の化身である。

 きちんと儀式を踏んだ、生きた仏である。

 女たちとは、格が違うのだ。

 なのに、安寿は女を求める。

 太若丸の言動に関して、あれほど指導や注意をするのに、自らの言動は不潔である。

 汚らわしいと思う。
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