本能寺燃ゆ

hiro75

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第二章「性愛の山」

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 その代表格が、寺である。

 中には、百人もの稚児と関係を持った強者もいる ―― 東大寺別当宗性そうしょうである。

 鎌倉時代、奈良仏教の復興に努め、東大寺別当(最高責任者)にまでなり、著作も多い僧侶だが、いささか破戒的なところがあり、『いまは九十五人だが、稚児は百人までとする』 という誓いを立てたとか………………

 僧侶がこれだから、仏教等の最新学問を学ぼうと出入りする公家や武家の子弟によって、巷に広まるまで、そう年月はかからない。

 宇治左大臣 ―― 悪左府こと藤原頼長ふじわらのよりながは、その日記『台記』のなかで、男色家であることを公言している。

 武士の間でも少年愛・同性愛は浸透していったようで、希臘・羅馬のような主従の精神的な関係から、肉体的な愛へと進化していく。

 やがて、戦場に女性を連れていけなないため、近くに侍る小姓で性欲を満たすことが、戦国武将の嗜みのひとつとして見られるようになる。

 今日明日死ぬかもしれない戦場で、子孫を残さなければならないという本能が強くなるのは必然で、そうなるとどうしてもしたくなるが世の常で、足軽連中なら女郎を買って用を満たしていただろうが ―― 戦国の世、こういった合戦場を専門にした女郎たちがいた ―― 大将が素性の分からぬ女を陣屋に入れることもできず ―― 敵の間者かもしれないので ―― 仕方なく傍に仕える近習(少年武将)を対象とするしかなかった。

 そうなると、近習との師弟関係が強まり、強固な絆が築かれ、近衛集団としても最強となる。

 ちなみに、戦国時代に来日した宣教師の多くが、日本は良い国だが、この行為だけは許されないと本国に伝えている。

 こういった行為は、太平の世の中になっても絶えることはなく、それを専門とした男性や少年が出てくる ―― 陰間である。

 また衆道として、武家社会に根付いていく。

 この習俗は文学にも影響し、井原西鶴の『男色大鑑』など有名である。

 同性愛は、『たった四はいで夜も眠れず』と詠われた時代になっても続き、新選組局長近藤勇こんどういさみが、局内で男色が流行って困っていると手紙に書いたり、江戸に入った薩摩藩士たちの男色行為 ―― 薩摩藩では、郷中という年中が年少を教育する制度があった ―― が多く記録されている。

 これが、法律によって禁止されたのは、明治六年の「鶏姦罪」である。

 これは、男性同士のお尻による性行為を処罰の対象にしていた条例だが、なぜか明治十三年の明治刑法には盛り込まれず、そのまま失効してしまう。

 これ以降、本朝で同性愛を禁止する法律はなく、大っぴらには口にしないが、今日まで同性愛文化が脈々と受け継がれてきたのである。
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