本能寺燃ゆ

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第二章「性愛の山」

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 寝室に入ると、衝立があり、その向こうに安仁が寝ているはずだ。

 が、まるで人の気配がない。

 本当にいるのだろうか?

 太若丸は、その場で丁子を口に含む。

 舌先がぴりぴりと痺れる。

 これを湯で飲み干すと、少しましだ。

 これが済むと、安覚は手燭の明かりを消して、太若丸に紙を渡し、寝室を出ていく。

 ここからは、太若丸と安仁だけである。

 暗闇に不慣れな目が徐々に慣れ、そっと衝立をのぞき込むと、格子からわずかに入り込む月明かりのもとに、横たわる人がいた。

 彼は、教えられたとおりに、足音を立てずに寝台へと向かう。

 安仁は、左脇腹を下にして横になっている。

 太若丸は小袖を脱ぎ、彼に掛ける。

 男の左側に、右脇腹を下にして横たわる ―― 故に、帯の結び目は左なのだ。

 すると、安仁は驚いたように目を覚まし、小袖を太若丸の方へもかけ、引き上げる。

 はじめから目を覚ましているが、まさにいま気が付いたようにしなければならない。

 なんとも馬鹿々々しい限りだが、安寿曰く、『こういった芝居めいたものは必要なのですよ』とのことらしい。

 安仁の手が伸びてくると、太若丸の方では心得へて身を寄せる。

 男のくすんだ様な臭いが、鼻孔をつく。

 少し緊張はしているが、不安はない。

 ―― 大丈夫だ、うらなるできる。

    十兵衛のためにも!

 安仁が、太若丸の帯に手をかける。

 太若丸は自ら帯を解き ―― このときも、すぐに解けるように帯を緩く結んでおく ―― 安仁に分からないように隠す。

 今度は、太若丸が安仁の帯を解こうと手を伸ばす。

 安仁は自ら帯を解き、これも太若丸の見えないところに隠す。

 二人の前が露わになると、安仁は左手を太若丸の腰の辺りに差し込んでくる。

 ここで手を入れやすいように、体を浮かせなければならない。

 腰に回った安仁の左手は、背骨をなぞるように上へ、上へとあがり、最後は手枕となって、少年の頭を抱きかかえるように胸へと押し当てる。

 師のほうが緊張しているのか、彼の肉は少々汗ばんでた。

 初めての夜、稚児の方から手を伸ばしてはならない。

 足も、みだりに回してはいけない。

 安仁のほうも、腰から下へと手を伸ばしてはならない。

 ということは、二回目以降の夜は、やりたい放題である。

 安仁は、太若丸の髪を撫でながら、すっと匂いを嗅ぐ。

 男の息が頭に当たってこそばゆく、匂いを嗅がれているかと思うと、恥ずかしい。

 恥ずかしさで、なぜか下半身が反応してしまい、思わず腰を引いてしまう。

 ふっと男の唇から笑いが零れる。

 厳格な儀式である。

 笑っていけないのだが、安仁のその笑みが、太若丸の緊張を和らげた。

 太若丸は、習った通り、男の下半身に手を伸ばした。

 大指(親指)と人差し指、中指で、肉の根元 ―― 毛の生え際辺りを、捻るようにそっと握る。

 勃起している。

『気が強いものは強く、気が弱いものは軽く握りなさい』

 と、安寿から教わった。

 気が強いとは、太いが亀頭があまり張り出していないもの………………

 気が弱いとは、細いが亀頭が張り出しているもの………………

 安覚の勃起したものを指し示しながら教えてくれた。

 ちなみに、安覚のは気が強いらしい。

 安仁のは………………気が弱いので、優しく握った。
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