本能寺燃ゆ

hiro75

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第二章「性愛の山」

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 翌朝早く起こされ、おみよに身体を洗われた。

 あの行為や、昨日の安寿とのことなど、聞きたいことは沢山あったが、おみよは淡々と無表情で仕事をするので、声をかけづらかった。

 飯を食わされ、綺麗な着物をきせられ、女たちから化粧までさせられた。

「いやん、この子、ほんま可愛いわ」

「こうした方が、もっとええんやない?」

 などと、女たちは、きゃっきゃっ、きゃっきゃっとはしゃぎながら、権太を玩具にしていた。

 昼前に寺から迎えがきた。

 昨夜の坊主ではなかった。

 八郎の倍はあろうかという大男だ。

 鴨居に頭をぶつけ、小屋がぐらりと揺れ、倒れそうになった。

「壊すんじゃないよ、頭を下げな!」

 老婆が怒鳴ると、男は慌てて頭を下げた。

 毛虫が這っているかのようなげじげじ眉毛、秋津のように大きな目、猪のように跳ね上がった鼻、蛙のように大きくて分厚い唇、何でも噛み砕いてしまうそうな、がっしりとした顎、着ている法衣が小さいのか、袖から覗いた腕には筋の立った肉がたっぷりとつき、裾からはみ出した脛は毛むくじゃらで、この前出会った山賊も熊のようだと思ったが、それよりも熊であった。

 いや鬼である。

 老婆は怖がりもせずその鬼に、銭を寄越しなと手を出し、坊主はすぐに袋を手渡した。

 いちいち全部数える間、坊主はその大きな体を窮屈そうに折り曲げ、正座して大人しく待っていた。

 おみよが白湯を出そうとしたが、

「そいつにはいらないよ」

 と、老婆がぶっきら棒に言った。

 銭はきちんとあったようだ。

 すると、急に優しい口調になって、

「確かに受け取りましたよ、安仁様によろしくお伝えください」

 と、権太を押し出した。

 坊主は、小屋から出るときも鴨居に頭をぶつけていた。

 権太は振り返ると、老婆は、まるで餌を漁りにきた野犬を追い払うように、しっ、しっと手をやった。

 ここにはもう居場所はないのだと思い、大人しく坊主の後についていった。

 外に出てもう一度振り返ると、小屋から女たちが顔を出していた。

 おみよもいる。

 女たちは、「達者でな」「仰山可愛がってもらうんよ」「なんかあったらお出で」と、笑いながら手を振っていた。

 おみよだけは手も振らず、寂しそうな顔もしないで、権太が連れていかれるのを黙って見送った。

 老婆に怒鳴られたのか、女たちは慌てたように小屋に入っていった。
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