本能寺燃ゆ

hiro75

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第二章「性愛の山」

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「泣いてるんか?」

 おみよが覗き込んでいた。

 涙を見られたくはなかったが、拭うこともしなかった。

 代わりに、おみよが拭ってくれた。

「大丈夫や、うちがついてるから、心配いらん」

 そう言うと、彼女は権太の筵に入り込み、顔を胸に押し当てるようにして抱きかかえた。

 幾分肌蹴た襟元から、浅黒い谷間が見える。

 女の甘い匂いと饐えたような汗の臭いが入り混じった、噎せ返るような香りが鼻孔をつく。

 女の身体は、柔らかい。

 抱きしめられていると、心が落ち着いてくる。

 不思議だ。

 だから男は、女を求めるのだろうか?

 だから十兵衛や山賊たちは、姉を求めたのだろうか?

 権太は、おみよをぎゅっと抱きしめる。

 おみよも、権太を抱き返してくれた。

 権太は母を知らない。

 襁褓が取れる前に亡くなったらしい。

 姉に育てられたが、甘やかしてくれるような人ではなかった。

 だから、女を知らない。

 女の身体がこれほど柔らかく、優しく、甘い香りが漂って、高ぶっていた感情の火がゆっくりと消えていくような
不思議な感触があるとは知らなかった。

 その癖、下半身のほうは火照り、徐々に熱がこもって、病み上がりというのに、あそこが膨らんでいくのである。

 慌てて腰を引く。

 と、おみよがそれに気が付き、両足で彼の腰を抱きかかえるようにして引き寄せた。
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