本能寺燃ゆ

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第二章「性愛の山」

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「なかなか一丁前なことを言うようになったじゃないかい。ぼう、こっちに来な」

 老婆の後に続き、薄暗い奥に入ると、囲炉裏の周りに数人の女がいた。

 部屋の奥には、誰か寝ているようだ。

「は、は、八郎が来とったんか? あ、あ、あいつに、銭返せって、い、い、言ってくれ………………」

 しわがれた声から、寝ているのは年寄りだと分かった。

「煩いよ、爺さん、黙って寝てな!」

 老婆は、叱りつけた。

 連れ合いなのだろうか?

「ほら、あんたら邪魔だよ、このぼうを火に当たらせてやりな。長旅で、随分疲れている」

 女たちが避けて、ひとり分場所を空けてくれた。

 権太は、老婆に背中を押され、囲炉裏の前に座った。

 きょろきょろと周りを見ると、女たちもこちらをじろじろと見ている。

 五人ばかり、年はまちまちのようだが、酷く疲れたような様子は同じで、派手な着物に身を包み、甘ったるい匂いが漂っていた。

「婆さん、この子、男の子? 女の子みたいじゃない?」

 ひとりの女が口を開いた。

「男だよ」

「ほんまに? ここ、ついてんの?」

 いきなり、右隣にいた女が、権太の股間を握ってきた。

 あっと声をあげた。

「やだ、可愛い声して」

 女たちがはしゃぐ。

「ほんま、ついてるわ。でも、まだ小さいけど」

 右隣の女はくすくすと笑いながら、権太の股間を弄った。

 すると、どういうわけか、嫌だという気持ちがあるのに、あそこは熱くなり、徐々に大きくなりはじめた。

「いややわ、大きくなってる、一応立つんや」

 女たちがどっと笑う。

「このドスケが! 売り物に手出すなや!」

 老婆が怒鳴ると、女は名残惜しそうに手をひいた。

 ほっと安堵するとともに、なぜかもう少し触って欲しいという感じもあった。

「婆さん、この子、どうすんの? うちらと同じで、客取らせんの?」

 女の一人が訊く。

「この子なら、たこう買うやつ、おるんやないの?」

「女の格好させても可愛ええし」

 女たちは、めいめいしゃべりたいことをしゃべる。

「いや、御山に売る」と、老婆は言った。

「いややわ、ほなら、一生女の味を知らんままやんか」

「何言うてんね、女になるんやから、知らんでもええやんか」

「いや、知っといたほうが、あとで役に立つって」

「うち、こういう子、好きやわ」

 今度は、左隣の女が、権太にしなだれかかるように寄りかかり、かさついた手で太ももを撫でる。

 耳元で、「御山に行く前に、うちが女の味、教えちゃろうか?」と、囁く。

 くすぐったくて、びくりと体を震わせると、女たちから、「可愛い!」と声があがった。

「あんたら、ええ加減にせいよ!」

 ばしりと、老婆が太ももを撫でる女の頭を叩いた。

「まったく、どいつもこいつもドスケが!」

「ふん、ドスケにしたのは、どこにどいつだよ!」

 女も言い返す。

「そういうのは、太い客にやるんだよ。あんたら、早う化粧して、客を漁ってきな!」

「へいへい、分かりましたよ」

 と、女たちはめいめい化粧をし、筵を抱えて幾分暮れかかった外へ出ていった。

 出ていく際に、ひとりの女が権太の耳元で、

「帰ってきたら、気持ええことしてあげるからな。婆さんは煩いやろうけど、大人しく待っとき」

 と、囁いて行った。

 初めての白粉と紅の匂いに、権太は目がくらくらした。
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