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第二章「性愛の山」
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「いや、これだ」
と、八郎も負けていない、九本だ。
「ここまで見てやろう」
今度は六本になった。
「いや、まだ泣け」
と、八本を示す。
「うむ……」と、老婆は手を引っ込め、その手を顎にやり、しばし思案する。
交渉決別かなと思われたその時、
「その娘と一緒なら、これだけ出そう」
と、老婆の指は七本になった。
「いや、それは駄目だ、こいつは伴天連に売る。あいつらは、餓鬼が買わないが、娘なら高く買う」
「そうかい、なら、この話はなしだ」
老婆は、帰りなというように手を振り、奥に入ろうとした。
「ま、待て」
今度は八郎が止める番だった。
「分かった、これでいい」
と、指六本を出し、
「よし、商い成立だ」
老婆は、ぱんと両手を売った。
「あんたの良いところは、そうやって決断が早いところだ。商いは時だ、躊躇してたら先を越される。売り時と買い時を逃さないようにしないとね」
そう言いながら、老婆は袋を手渡した。
八郎は、それを素直に受け取ると、懐に入れた。
「数えなくていいのかい、ワシが誤魔化しているかもしれんよ」
「あんたはケチだが、嘘はつかねぇ。それだがあんたの良いところだ」
「本当にね」
と、老婆が笑った。
八郎は、権太に向き直った。
「ぼう、お前とは、ここまでだ。これも世の道理だ、悪く思うな。恨むのなら、己の無能さ、無力さを恨め。まあ、最後の好だ、良いことを教えてやる。大切なことは、お前さんがいまどこにいるか、そして何をしたいのか、正直であることだ。そのためには、しっかりと地に足を付けて、落ち着いた気持ちで辺りを見回せ、そうすれば良き道が開けてくる。あいつとも再会できるやもしれん」
八郎は、そう言って小屋を出た。
姉に、「弟に何か言ってやることはないのか?」と訊いていたが、姉はあっさりと首を振り、八郎について出て行ってしまった。
小屋を出る際に、姉とは一度だけ目があったが、別れを悲しんでいるのか、寂しがっているのか、それとも喜んでいるのか、分からなかった。
権太も、別に寂しいとは思わなかった。
ただ、八郎が行ってしまったことは、心細かったが。
と、八郎も負けていない、九本だ。
「ここまで見てやろう」
今度は六本になった。
「いや、まだ泣け」
と、八本を示す。
「うむ……」と、老婆は手を引っ込め、その手を顎にやり、しばし思案する。
交渉決別かなと思われたその時、
「その娘と一緒なら、これだけ出そう」
と、老婆の指は七本になった。
「いや、それは駄目だ、こいつは伴天連に売る。あいつらは、餓鬼が買わないが、娘なら高く買う」
「そうかい、なら、この話はなしだ」
老婆は、帰りなというように手を振り、奥に入ろうとした。
「ま、待て」
今度は八郎が止める番だった。
「分かった、これでいい」
と、指六本を出し、
「よし、商い成立だ」
老婆は、ぱんと両手を売った。
「あんたの良いところは、そうやって決断が早いところだ。商いは時だ、躊躇してたら先を越される。売り時と買い時を逃さないようにしないとね」
そう言いながら、老婆は袋を手渡した。
八郎は、それを素直に受け取ると、懐に入れた。
「数えなくていいのかい、ワシが誤魔化しているかもしれんよ」
「あんたはケチだが、嘘はつかねぇ。それだがあんたの良いところだ」
「本当にね」
と、老婆が笑った。
八郎は、権太に向き直った。
「ぼう、お前とは、ここまでだ。これも世の道理だ、悪く思うな。恨むのなら、己の無能さ、無力さを恨め。まあ、最後の好だ、良いことを教えてやる。大切なことは、お前さんがいまどこにいるか、そして何をしたいのか、正直であることだ。そのためには、しっかりと地に足を付けて、落ち着いた気持ちで辺りを見回せ、そうすれば良き道が開けてくる。あいつとも再会できるやもしれん」
八郎は、そう言って小屋を出た。
姉に、「弟に何か言ってやることはないのか?」と訊いていたが、姉はあっさりと首を振り、八郎について出て行ってしまった。
小屋を出る際に、姉とは一度だけ目があったが、別れを悲しんでいるのか、寂しがっているのか、それとも喜んでいるのか、分からなかった。
権太も、別に寂しいとは思わなかった。
ただ、八郎が行ってしまったことは、心細かったが。
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